「今は乗り役の選択で馬主とケンカできる時代じゃないし、オレも彼に何度か厳しい決断を下したこともあったから、彼の悔しい気持ちは心中察するに余りある。園田では自分で馬を選べるジョッキーだったからね。ましてや後輩の岩田があの活躍。オレもビデオに映る彼の勝利者インタビューを何度も見て涙がこぼれ落ちそうになったよ」
栗東一の小牧太応援団長を自称する橋口師がこう代弁する通り、満開に咲き誇る仁川で悲願のGI初勝利、喜びの涙にあふれた小牧騎手の会心の騎乗ぶりは外れ馬券を忘れさせ、記者の生涯忘れえぬ名シーンとしてこの胸にしかと刻み込まれた。
もちろん、「あの1勝はきっと彼をもうひと皮むけさせるはず」という応援団長の見立て通り、戦国皐月賞の本命馬は小牧鞍上のスマイルジャック。
決して、図抜けた派手さはないが、「本当に強い勝ち方やったね。きさらぎ賞の時は少し掛かると聞いていたので、ボク自身が大事に乗りすぎた感じ。1回乗ってこの馬のことが分かっていたから、前走はうまく能力を引き出せた。スタートもいいし、素直。ホント、乗りやすい馬」と同騎手が振り返るスプリングSこそが、これぞ、タイトでテクニカルな中山二千の決戦場にはおあつらえ向きの脚質だろう。
デビューから7戦して<2320>と堅実駆けで大一番を迎えるシチュエーションもどことなく、ド肝を抜いたあのレジネッタとかぶる。先の勝利者インタビューの第一声は“お待たせしました”の名セリフ。ひと皮破れば、怒とうのごとく勢いが増すのがこの世界。今週は涙から会心の小牧スマイルで皐月の冠をかっさらう。