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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第90回 '94年以降、最も消費を減らした内閣

 8月13日。2014年第2四半期のGDP統計が発表された。
 実質GDPの成長率が、対前期比マイナス1.7%、年率換算でマイナス6.8%。衝撃的なマイナス成長となった。

 全体の落ち込みもさることながら、細かくGDPの中身を見ると、その内容のあまりの悪さにショックを受ける。筆者が内閣総理大臣だったら、数字を知った瞬間に隠棲を決意するほどの悲惨さなのだ。
 特に酷かったのが、民間最終消費支出の落ち込みである。対前期比マイナス5%。第2四半期のGDPにおける、民間最終消費支出の対前期比マイナス5%という落ち込みは、統計を比較できる'94年以降で最大なのだ。

 「前の増税('97年)の時は?」
 「リーマンショックの時は?」
 「東日本大震災の時は?」
 と、思われた方も多いと思うが、今回の消費の落ち込みは'97年増税時、リーマンショック、東日本大震災時を軽く上回っている。

 第二次安倍内閣は、四半期当たりの民間最終消費支出(マイナス5%)及び家計消費支出(マイナス5.2%)を、統計史上、対前四半期で最も減らした政権ということになる('93年以前にしても、さすがにここまでの消費の落ち込みがあった年はなかったのではないだろうか)。
 もちろん、'14年第1四半期の消費が「駆け込み消費」で膨れ上がったため、その反動があったという「言い訳」はできないことはない。とはいえ、その場合は数字で'97年と比較しなければなるまい。
(1)'97年 民間最終消費支出(対前期比)
 第1四半期 2.1%
 第2四半期 マイナス3.5%
(2)'14年 民間最終消費支出(対前期比)
 第1四半期 2%
 第2四半期 マイナス5%
 上記の通り、駆け込み消費の勢いは'97年の方が少し大きく、駆け込み消費後の反動は'14年の方がはるかに大きいというのが「現実」なのだ。
 今回の('14年第2四半期の)消費の落ち込みについては、もはや「想定の範囲内」で片づけることは不可能である。
 もっとも、想定の範囲を「マイナス5%」と設定すれば可能だが、その場合は「なぜ、マイナス5%なのか?」を説明する必要がある。

 GDP全体に話を戻すと、冒頭にも書いた通り、'14年第2四半期の実質GDPの成長率は、対前期比マイナス1.7%、年率換算でマイナス6.8%だった。'97年に消費税を増税した際も、確かに第2四半期の経済成長率はマイナスに突っ込んだ。とはいえ、'97年4月の消費税増税時、第2四半期のGDPは年率換算で3.55%(対前期比0.9%)のマイナスだったのだ。
 すなわち、今回のGDPの落ち込みは、パーセンテージで'97年時の2倍近いということになる。
 しかも、まずいのが、民間在庫の寄与度(ある変数の変動に対し、それぞれの要因がどれだけ影響しているかを表したもの)が1.0%と、大きなプラスになっている点だ。

 GDP統計上、在庫の増加はGDPの「押し上げ要因」になる。つまり、第2四半期に企業の在庫が積み上がった(現実には、生産は行われたため、GDPは増える)ことを意味しているのだ。
 在庫増という好ましくない寄与度が0%だったと仮定すると、第2四半期の実質GDPは年率換算で10%を超えるマイナスになっていただろう。
 そして、積み上がった在庫が「はける」まで、企業は生産を手控える。すなわち、第3四半期のGDPは押し下げられる。
 実際、同じく8月13日に発表された6月の鉱工業指数確報値では、生産が対前月比マイナス3.4%、在庫率が同プラス3.4%、そして稼働率が同マイナス3.3%となり、
 「生産の減少、在庫の増加、稼働率の低下」
 が着実に進行していることがわかる。

 また、外需の寄与度はプラス1.1%だったが、これは「輸出の増加」ではなく、「輸入の減少」によるものだ。
 GDP統計上、輸出入は「純輸出(輸出から輸入を引いたもの)」で計上されるため、輸入の減少はGDPに「プラス」の影響を与えるのだ。
 ゆえに、内需縮小により輸入が減少したことで、外需の寄与度が上がっていることになる。「不況型の純輸出の増加」と表現すればいいだろうか。
 政府には、「想定の範囲内」といった抽象語で逃げるのではなく、
 「なぜ、'97年時と比べて落ち込みが激しいのか?」
 を、真摯に考えて欲しい。

 筆者は、今回の増税による経済の失速が'97年よりも大きい主因は「実質賃金の低下」であると確信している。
 '97年は国民の実質賃金が「上昇局面」にある状況での増税であった。それに対し、今回は実質賃金の「下降局面」における増税なのだ。
 しかも、国民経済ベースの「家計貯蓄率」を見ると、'97年時は10%近かったのが、現在は何と1%を下回っている。貯蓄率を見ても、日本国民に所得の「余裕」がなくなってきていることが、あまりにも明らかなのだ。
 国民に余裕がない状況で、安倍政権は消費税増税を強行してしまった。
 よりわかりやすく書くと、国民が豊かになっていた時期の増税が'97年で、貧しくなっている時期の増税が'14年なのである。

 '97年は実質賃金が上昇していた状況で増税したにもかかわらず、我が国はデフレ経済に突っ込んだ。
 果たして、今回は?

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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