宇迦之御魂(うかのみたま)に大宜都比売(おおげつひめ)、保食神(うけもちのかみ)。稲作の国・日本には、稲もしくは穀物にまつわる神がたくさん存在する。稲穂を表す神名も豊富だ。そうした稲魂信仰のなかで、ことに尊崇を集めたのが御歳神(みとしのかみ)。父神の大年(歳)神とともに、年の稔りを司る神である。
田園風景を思い浮かべるからだろうか、稲作の神と聞くとおだやかなイメージが湧く。だが、御歳神の怒りはとても激しいと『古語拾遺』には記されている。その怒りは白猪、白馬、白鶏を献上して謝したことでようやく解かれ、逆に豊穣がもたらされた。以来、祈年祭(としごいのまつり・神祇官による豊作祈願)では、御歳神に白猪らが献じられるようになったという。
大年神・御歳神への信仰は特に中部日本以西で盛んで、神名を冠した神社も数多い。有名なのは『延喜式』に記載された葛木御歳神社。古くから稲田が開けた葛城山麓に鎮座する“鴨社三社”の一つ・中鴨社だ。背後には磐座の点在する神奈備山があり、古代の祈りの姿そのままを今にたたえている。
さて、正月には各戸に歳神が訪れるとされる。古来、「トシ」とは稲の稔りを指した。鏡餅は歳神への供え物であり、おさがりには歳神の魂がこもると考えられた。つまり「御歳魂(おとしだま)」だ。この民間信仰の「としがみさま」は大年神、御歳神だとされている。
専業農家が減った今、御歳神社の境内にこだまする祈りは「一年の幸せ」。ただ子供たちが願うのは、お年玉のアップかもしれない。
(写真「春日大社の社殿を移築した本殿」)
神社ライター 宮家美樹