ある日、美優の指名が他の客と重なり、若の席にヘルプで美優の友人、ヒカルがついた。今まで若が来店した際に美優の指名が重なったことはない。若は指名の子が他の席に行くことを何より嫌うことでも有名だった。店を出る若を、美優は外まで追いかけるが「飲み過ぎたから帰るだけだ」といわれ、それからしばらく店に来なかった。
一か月後に現れた際は、なんとヒカルを指名するように。「わたしがいない間、若に何したの??」「何かしたところで、簡単に指名替えする人じゃないのはあなたがよく知ってるでしょ?」ヒカルは激高する美優に反論した。実際に若という人間は、何か言われたところで素直に言うことをきかない。だからこそ、若をてなづけることが出来た嬢に売れっ子の素質があるのだ。美優も若から指名を受けてから、少々図に乗っていたかもしれない。加えて、個人的にも気に入っていた若が自分を容赦なく捨てて、よりによって親友のヒカルに指名がえとなれば、それはもう面白くない。例えは安直だが、自分の彼を友達にとられたような感覚といえよう。
ヒカルはジンクス通りの売れっ子に。若が来てるときでも、容赦なく指名は重なるが、若はそれでもヒカルを指名しつづけた。美優は自分には何が足りなかったのかまったく理解できず、そして若がもう自分を見てくれないことがショックだった。
ある日、美優にヒカルからメールがきた。休みの日に話があるから二人で飲もうと誘われたのだった。「今さらなんの話よ」と思いながらも待ち合わせ場所に出向くと。ヒカルは「これからいう話は絶対に内緒にして」と言った。若がなぜ美優を指名することをやめたのかについてだった。実はあれだけ百戦錬磨に見えて童貞だという。そして、「美優からあからさまな好き好きオーラが出ていて、このままだと後に引けない事態になる、と不安だった。若自身も美優は好きだがばれるのも怖い。美優の人気があがり自分の手の届かない子になるのが辛く、指名しなくなった」というのが真相だった。何もいわずに指名を変えて悪かったと伝えたいけど、そうなると事情を話すことが苦しい、ヒカルを指名しているのはある意味女というよりは男友達に話す感覚でいられるからとのこと。
美優は気が付くと泣いていた。本当のことが聞けた安堵感によるもの、知らない間に若を追い詰めていたこと、そういった大事な話を自分よりもヒカルに出来たということ。
色んな理由が混在して、泣かずにいられなかった。
文・二ノ宮さな…OL、キャバクラ嬢を経てライターに。広報誌からBL同人誌など幅広いジャンルを手がける。風水、タロット、ダウジングのプロフェッショナルでもある。ツイッターは@llsanachanll