よく見ると手は細く、全身ゆったりした服に身を包んでおり、長い髪であることから恐らく女性であると思われる。
手すりに掴まって滑るように動いている人の一瞬を捉えたようにも見えるこの写真は、1966年にイギリスにて撮影されたものである。
撮影したのはカナダ人牧師のハーディ氏。彼はイギリスで有名なグリニッジに存在するクイーンズ・ハウスを訪れた際にこの写真を撮影してしまったのである。
クイーンズ・ハウスはグリニッジ・パークの中に国立海事博物館と並んで建つ、グリニッジでも有数の観光名所である。この地には中世よりグリニッジ宮殿が存在しており、この建物は1638年にジェームズ1世の妻であるクイーン・アン・オブ・デンマークの為に建てられた現存する唯一の当時の建築物となっている。
イギリスでは初のイタリア・ルネッサンス様式を用いた建築物でもあり、ヘンリー8世やその娘アン王女、エリザベス1世もこの宮殿で生まれている歴史的にも重要な場所だ。
ハーディ牧師もこの地を訪れ、建物の建築様式を写真に収めていた。そしてクイーンズ・ハウスで特に有名な螺旋階段「チューリップ階段」を撮影した写真にこの人影が写り込んでいたのである。
彼がこの人影に気づいたのは、カナダに帰国して写真を現像してからだった。なお、彼は撮影時、周囲に人はいなかったと証言している。
この写真は撮影当時から話題を集め、専門家たちによる写真やネガの検証が何度も行われた。しかし、ネガに改竄の痕跡はなく、露光などの撮影・印刷ミスによって起きるものではないとする結果が出ている。
歴史のある建物には必ず幽霊が出るとされるぐらい、心霊スポットに事欠かないイギリスであるが、このクイーンズ・ハウスもその一つである。
昔からクイーンズ・ハウスではどこからともなく子供たちの歌声が聞こえるなどの証言が確認されているのだが、やはり一番目撃証言が多いのは写真が撮影されたチューリップ階段だ。ここでは過去に女性が一番上から転落死したという話があり、階段を移動する謎の足音を聞いた人が後を絶たない。
また、2002年にもここで勤務している人物が「バルコニーを滑るように移動し、壁の中に吸い込まれるように消えた謎の人影」を目撃している。この人影は白っぽい服を着て、クリノリンを着けているように大きく膨らんだスカートを着けた古風な姿をしていたという。
文:和田大輔 取材:山口敏太郎事務所