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山口敏太郎の直言「言霊の国・日本では、最悪を想定した話が出来ない」

 3月18日、名古屋「パルル」で開催された東日本大震災関連のイベントに参加した時、作家・ミュージシャンのモーリー・ロバートソンさん(父親が原爆傷害調査委員会放射線影響研究所に勤務しており、広島市に住んでいた)が、興味深い話をしていた。

 こういう災害が発生した場合、欧米では政府の発表する情報のみを信じることはしない。各個人が情報精度の高いものから低いものまでありとあらゆる情報を集め、それを列挙し総合的に判断するというのだ。情報の精査、それに伴う行動まで、個人の責任にゆだねられているわけだ。

 大変興味深い話であったが、我が国ではなかなかこういう行動が出来ない。

 日本では古来より言霊(ことだま)という概念が強く、忌むべき言葉を口にすることを回避する習慣がある。これは現代でもあることで、山や海で使ってはいけない言葉があり、各職業でも忌み言葉がある。もっと親しみやすい例をあげるならば、結婚式で「切れる」「離れる」「別れる」「お終い」という言葉は使用しないように細心の注意が払われる。また、受験生の前でも「すべる」「落ちる」という言葉を使用しないように配慮される。

 しかし、結婚式で「別れる」という言葉を言っても本当に離婚するわけでもないし、受験生の合否は本人の実力であろう。だが、日本にはなるべく不吉な言葉を口にしないという習慣があり、不吉な言霊を口にすることでそれが実現されてしまうのではないかという潜在的な恐れがあるのだ。

 したがって、今回のような災害が引き起こされた場合、最悪の可能性に関して口すると「そんなことを言うな」「不謹慎だ」「不適切だ」と非難にさらされることになる。東京電力や政府関係者の歯切れが悪いことを批判する声もあるが、彼らが現状から分析される最良の事態から最悪のシナリオまで隠すことなく明言した場合 、欧米人のように冷静に情報分析し、自己責任で行動に移れる日本人は何割いるだろうか。

 もちろん、東京電力や政府関係者による曖昧な会見は許されるべきではない。出来る限り正確な情報を断固要求すべきである。だが、今さら“役人体質丸出しの東京電力”では無理な相談であろう。

 では我々は、何をすればいいのであろうか。まずは、欧米のニュース映像や関係者から意図的にリークされた情報をネットを活用して集め、自分の行動指針は、自ら判断すべきである。この時に他人がとった行動や発言を「自分だけ逃げた」「扇情的な言葉を口にするな」と批判するべきではない。日本人それぞれが、あらゆる情報に取り組み、行動の決断を求められている時なのだ。言わば、“情報リテラシー”の試験に取り組んでいるような現状である。

 他人がどんな言動を発しようとも、“怒らず”“乗らず”自分のジャッジ基準で冷静に判断すればいいのだ。政府の曖昧な“いい子ちゃん発表”だけ聞いて、危険性を訴える声を「扇情的だ」と言って言論封鎖することがあってはいけない。曖昧な情報から扇情的な情報まで、全ての情報を並べて冷静に判断するこそが、今我々のなすべきことであろう。(山口敏太郎)

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