亀田兄弟が育った大阪には90年代、日本中を湧かせた名ボクサーがいた。“浪花のジョー”こと辰吉丈一郎。「バンタムを制す者は世界を制す」と言われる、強豪ひしめく階級でWBC世界バンタム級の王座に就くこと3度。倒すか倒されるかのスリリングなファイティングスタイルと、愛すべきビッグマウスで人気を集めた。
ボクサーの職業病である網膜剥離で一度は引退するが再起。38歳になった今も、まだ現役にこだわっている。その辰吉は興毅を「基本ができていて、パンチ力もある。練習もよくするから、世界チャンピオンになるべき選手だ」と高く買っている。
その興毅の周辺が、再び賑やかになってきた。
大毅のセコンド役を務めた興毅、父・史郎氏が内藤戦で演じた醜態をきっかけに、所属していた協栄ジムと契約解除。その後、東日本ボクシングジム協会に出されていた亀田兄弟の「協会預かり選手」の申請は正式に却下されたが、史郎氏の謝罪をきっかけに当初は困難と見られていた亀田ジム設立が事実上、容認されたからだ。
「ボクシング関係者なら誰でも、客を呼べる興毅の価値をよく知っています。だから、亀田親子のうち興毅だけでも救おうと落としどころを探していたと言っていい。そんなときに史郎氏からの詫びは渡りに船。『2人が日本のリングに上がれるよう、協会の方々のご指導を受けながら、“独立”の方向で然るべき手順を踏んで、進めさせて頂きたいと思います』との、史郎氏からの文書のコメントも好感されました」(フリーのスポーツジャーナリスト)
史郎氏はセコンドライセンスの無期限停止処分を受けているため、ジムの会長になる資格はない。そのため、10年以上のライセンス保持者から名義を借りる、1000万円の加盟金など、いくつかクリアしなければならないハードルはあるが。
「ボクシング界にはマネージャーやトレーナーなどを含めれば、ライセンスを持っている者はゴマンと居る。金もファイトマネーをたんまり手にしているから、1000万円なら苦もなく出せる。8月にも新ジム誕生といわれるのは、そんな背景があるからです」(同)
現在、WBA世界フライ級1位の興毅の復帰戦に、7月5日にメキシコで行われるWBA世界フェザー級タイトル戦の前座戦が内定。その後もメキシコかアメリカでリングに上るプランも浮上している。亀田ジム設立後の準備は着々と進んでいるわけだ。
これまで亀田兄弟の試合を中継してきたTBSサイドも、「応援するスタンスは変わらない」と明言。数字(視聴率)の取れるコンテンツだけに、手放す気はさらさらない。
さて、そこで注目されるのが興毅の日本での復帰初戦。まずはノンタイトル戦であってもおかしくはないが、世界タイトル戦と見るのが妥当だろう。
「ずばり、内藤大助への挑戦です。『もう(亀田兄弟とは)戦わない』と内藤は言っていましたが、その発言を翻す可能性は十分ある。大毅の謝罪を受け入れているように、おおらかな性格の内藤にはわだかまりはないでしょう。ファイトマネーが満足のいく額なら挑戦を受けておかしくない」(前出・スポーツジャーナリスト)
7月30日に、WBCとWBAのフライ級ダブル世界タイトル戦が行われるが(もう1人の王者は坂田健史)、内藤が3度目の防衛を果たすのはまず間違いない。
「興毅とやるとすれば、年内でしょう。時間的に余裕があるし、因縁試合になるのか、和解の一戦になるのか。実現してほしい」(同前)
日本のボクシング史に残る戦いになることだけは、間違いない。
《亀田親子の暴言・蛮行・パフォーマンス》
06・8・1〜2 ランダエタとのWBA世界ライトフライ級タイトル戦の前日計量と試合前計量。前日、興毅がランダエタに、彼のあだ名(ベイビー)に引っかけてキューピー人形を渡す。試合前にはランダエタが紙おむつとおしゃぶりをプレゼントも、興毅は床に叩きつけ威嚇する。
06・8・7 テレビでの、やくみつる氏の発言に史郎氏が激怒。「このままで、済むと思うな」と凄む。
06・9・27 大毅の試合の判定を巡るファン同士の小競り合いに、史郎氏が介入。ファンを殴ろうとする。
07・3・24 興毅の試合のレフェリーに史郎氏が暴言。JCBから「言動注意」を通達される。
07・10・11 王者・内藤大助と大毅のWBC世界フライ級タイトル戦。史郎氏がリング上で内藤を威嚇。試合中にセカンドについた史郎氏と興毅が「玉打ってええ」「ひじを目に入れろ」「投げろ」などと反則行為を指示。
07・10・17 史郎氏が内藤戦の謝罪会見。「反則行為は指示していない。そう聞こえたとしても何も言えない」。夕方、大毅、史郎氏、金平協栄ジム会長の3人で謝罪会見。大毅は坊主頭で無言、約2分で終了
07・10・26 興毅が協栄ジムで記者会見。大毅に反則を指示したことを認め、謝罪。
08・1・27 大毅が都内で追突事故を起こし、「クルマはぶつけるもんやろ」。