「そういえば、サヤカちゃんって彼氏いたっけ?」
私たちの話を笑顔でウンウンと聞いていたサヤカちゃんにも、とりあえず的な感じで話を振ってみた。大人しくて清純派(?)のサヤカちゃんは、私たちとはまったくの正反対って感じで、お客さんからのウケもそれなりに良い子(…らしい)。
「いえ、いないです」
「そうなの? 可愛いから絶対いると思ってたのに」
「どれくらいいないの?」
「ずっとですよ」
「ずっとって…3年とか?」
「いえ、今までずっとです。」
変わらずにニコニコしているサヤカちゃん以外、その場にいた女の子全員が絶句する。
「えっ、サヤカちゃんって22歳だよね…? 今までってことは22年間?」
「はい、22年間ずっとです」
「どうして?」
「どうしてって言われても…そもそも、人を好きになったことがないんでわからないです」
「じゃあ、何でキャバ嬢になろうと思ったの?」
「10代の頃から引きこもりでアニメばかりみてたんで、完璧に夜型生活になっちゃってたんです。だから昼間の仕事ができないんですよね、私」
もうこれ以上何も聞かないでおこう。サヤカちゃんは大丈夫でも、聞いてる側のコッチが悲しくなってくる。でも、後々、他の女の子に聞いたらたまにいるらしいんだよね。付き合ったことも経験人数も0人のキャバ嬢って。もちろん、本当にたまにだけどね(笑)。
それから数か月後、いつものようにベラベラと女の子が閉店後の店内で喋っていたとき。突然、サヤカちゃんが嬉しそうこちらを見てきた。
「実は、初めての彼氏ができたんです…」
「嘘でしょ!?」
キャーキャー騒ぐ私たちと、頬を赤らめながら照れるサヤカちゃん。
「で、誰なの? お客さん?」
「はい、いつも来てくれる人なんですけど。私と同じアニメが好きでその映画をこの間ふたりで観てきたんです」
再び、あの日と同じように絶句する私たちにおかまいなく、初めての彼氏について惚気まくるサヤカちゃん。この子を落とそうと、大金をはたいて店に通ったり、高級なプレゼントを送ったりしていたお客さんに言ってあげたい…。経験がない女の子は、落とすポイントがちょっとズレてるんだよ…と。
取材・構成/LISA
アパレル企業での販売・営業、ホステス、パーティーレセプタントを経て、会話術のノウハウをいちから学ぶ。その後、これまでの経験を活かすため、フリーランスへ転身。ファッションや恋愛心理に関する連載コラムをはじめ、エッセイや小説、メディア取材など幅広い分野で活動中。
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