黒のスーツに装飾具はなし。髪はサイドをひとつにまとめた清潔感のあるスタイル。左手薬指の星形タトゥーはおそらく強力ファンデーションによって消され、左足首のタトゥーはスカートに隠された。楚々とした若奥様にしか見えない酒井被告が法廷に現れたのは、午後1時30分、開廷ちょうどの時間だった。保釈の際より少しやせた印象。青白い顔で、口元にもさすがに“のりピースマイル”はなかったが、冷静な表情で傍聴席に一礼した。
常にうつむきがちに一点を見つめながらも、裁判官の質問にははっきりと「はい」と答え続けた酒井被告。途中、情状証人に立った前所属事務所「サンミュージック」の相澤正久副社長の言葉にハンカチで目を拭うシーンもあったが、保釈時のような大粒の涙がこぼれることはなく、どちらかというと“ウソ泣き的”。総じて落ち着き払った様子だった。
そんな酒井被告が突然、涙声になって感情をあらわにしたのが弁護人に「今後はどうするのか?」とたずねられた際。「夫と話し合い、私の気持ちとしては…離婚をし、お互いに更生することが必要だと思います」と、離婚する意向を言葉にした瞬間だった。
今にも消え入りそうな声。証言台に立った酒井被告の薄い肩は震え、それまで姿勢よく伸びていた背筋が、「離婚」の一語を発するとともに、苦しげに曲がった。言ったそばから後悔の念が生じたことを感じさせる、急激な取り乱し方だった。
その後も、夫・高相被告との離婚については、法廷内でたびたび問われることになる。
検察官による被告人質問では、「離婚するのですか?」と単刀直入に聞かれ、「夫とはまだ話し合いを持っていません。今後話し合って決断したいと思います。お互い更生する努力が大切だと思います」と、いきなり発言内容が弱まってしまった。
次に「今後も夫と一緒に住むのですか?」と聞かれると、「夫も二度と覚せい剤をやらないとは思います。悪いのは私。覚せい剤を引き離せなかった」と、ここでも微妙な答え。結局、「一緒に住まない」と明言することはなかった。
さらに、弁護人弁論で酒井被告の弁護人は、同被告の“揺れる女心”を察したかのように、「今後は被告人と被告人のお母さんと子供の3人で暮らし、お母さんが厳しく監督すると言っている。また、夫とは『一定の距離』を置く決意もしています」と、完全に弱い言い回しに変化。結果的にかなり苦しい表現で情状酌量を求めるハメになってしまった。
思えば、21日に行われた高相被告の初公判では、酒井被告から高相被告の母に手紙が届いていたことが発覚。高相被告自身が「『大変申し訳ないことをした。家族3人でまた暮らしたい』と書いてありました」と、愛ある内容を明かしていたのだった。また、高相被告が法廷で、ときに酒井被告の不利になるような発言をしたのに反し、この日の酒井被告は「夫は私に(覚せい剤を)使用させるのには後ろめたい気持ちがあったと思います」などと、終始、夫を気遣う供述を繰り返した。
メディアでは識者が「離婚が更生への第一歩」と口々に語り、情状証人に立った芸能界での育ての親・相澤副社長もまた同じ考えだった。「離婚を認めなければ私の明日はない」と酒井被告が思うのも無理はない状況だ。しかし肝心の胸中はどうか。この日の様子から、夫への愛の感情がなお消えていないのは明白だった。
また、幼いころから両親の離婚、肉親との死別などを経験し、家族との「普通の生活」に恵まれなかった酒井被告にとって、やっと育むことができた自らの家族生活がどれほど大切だったのかも明らかだ。
裁判官に「最後に言っておきたいことは?」と促され、「二度と覚せい剤を使わず、日一日と信頼を取り戻せるよう頑張っていきたい」と宣誓した酒井被告。自らの言葉に忠実になるためには、夫と家族への尽きせぬ愛情を抑えて、“偽装離婚”とでもいうべき決断をするしかなさそうだ。