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【コンピューターゲームの20世紀 47】難しいのにはそれなりの理由があるRPG「ハイドライド」

 まだコンピューターゲームが今ほど普及していない1980年代、それまでテーブルトーク形式で遊ばれていたRPGを、コンピューターを介して遊ぶ手法が確立された。そのコンピューターRPG黎明期におけるヒット作の中でも特に有名でファンの多い3作品『ウルティマ』『ウィザードリィ』『マイト&マジック』(『マイト&マジック』のみ発売時期が遅いため、代わりに『ローグ』や『バーズテイル』をいれることもある)は世界3大RPGと総称される。

 日本においても同様の括りは存在し、かつて『ハイドライド』『ドラゴンスレイヤー』『夢幻の心臓』の3作品が国産3大RPGと呼称されていた時期があった。当時はまだパソコンの価格が高く普及率も低かった時代、ゲームの数も現代と比べると非常に少なく、コンピューターRPGを遊べたのは限られたプレイヤーのみ。その恵まれた環境を持った少年達は貪るように1本のゲームにのめり込んでいたのだ。

 今回紹介する『ハイドライド』は1984年末に発売された作品だが、その後2年間にわたって売れ続けたモンスターソフト。1985年と1986年のパソコンゲーム年間売り上げで2位と3位を記録している。当時は先述のようにゲームの数が少なく1つのゲームに人気が集中しやすい時代ではあったが、それでも『ハイドライド』の人気が凄まじかったことは間違いない。そしてこのRPGという新ジャンルのゲームがパソコンゲーム市場を、やがては家庭用ゲーム市場をも席巻することになるのである。

 『ハイドライド』のゲーム性は今で言うところのアクションRPG(A-RPG)であるが、特に難しい操作などは必要としない。カーソルキーで主人公の移動、スペースキーで防御・戦闘の切り替え、基本的にこれだけの操作でゲームを進めていく。戦闘も非常に単純で、敵に接触すれば自動的に戦闘となり、敵と主人公のライフが減っていき、先にライフが0になった方が負けという具合である。この際に敵を倒せば経験値を得ることができ、主人公が負ければ即座にゲームオーバーとなる。このように潔いまでに単純な操作な本作だが、ゲームクリアには相当な試行錯誤が必要であり、かなり歯ごたえのあるゲームになっている。

 本作の目的は異世界の王国フェアリーランドを救うこと。そのためには悪の親玉であるバラリスを封印するために3つの宝石を探し出し、3人の妖精にされてしまったプリンセスを助け出さなければならない。これが一般的なRPGであれば村や町で情報収集をしながら装備を整え…となるのだが、本作には貨幣の概念はなく町などは存在しない。つまり、完全にノーヒントでゲームを進めていかなければならないのだ。

 ゲームがスタートすると主人公はいきなりフィールドに放り出される形となり、プレイヤーは全ての謎を自力で解いていくことになる。これは当時のRPGとしては比較的普通のシステムであったが、後の家庭用ハードにおけるRPGに慣れてしまったプレイヤーからは恐ろしく不親切に感じられるかもしれない。また、その謎解きも非常に難解で、プレイヤーを悩ませたのである。

 実際に筆者も当時本作をプレイした際には何をすればいいかが全く分からず、広大な(今プレイすると非常に狭いが当時は広く感じたのだ)フィールドを右往左往したもの。しかし、徐々に道が開き始める。初めはゲームオーバーの連続であったが、段々と敵を倒すコツを掴み始めるとレベルが上がっていき、プレイにも余裕が生まれる。そうなると行動範囲も広がっていき、色々と試すうちに偶然妖精を助け出すことに成功。現金なもので一度の成功で俄然やる気がわき、本作が実に面白く感じられ謎解きに積極的になっていくのだ。こうして自力で謎を解く喜びを知った頃には本作の虜になっていくといった具合で、『ハイドライド』中毒になる人が全国に多数出現したのだ。

 しかし、もしも本作が親切な作りで謎解きに関する情報が容易に手に入ったらどうなっていたであろうか。実際に全ての情報を知った現在、本作をプレイすると半日ほどでクリアが可能であり、エンディングに感動することもない。やはり、本作の面白さは困難な謎を自力で解いた時に得られるもので、その内容は攻略情報がすぐに手に入る現代にはそぐわない。

 そもそも昔のゲームが難しかったのは容量が少ないゲームを長く遊んでもらうための苦肉の策でもあり、その気になればいくらでも長大なゲームを制作できる今となっては不条理に思えて当たり前である。こういったことを考えずに本作を未プレイの層に無理に勧めたりすると「回顧厨」などと言われることになるので注意したい。

 本作は当時非常に多くのパソコンに移植されており、機種によって様々な特徴がある。中でもX1版は画面が切り替え方式ではなくスクロールするようになっており、グラフィックも綺麗である。また、MSX版はカセットテープとROMカセットの2形態で発売されている。さらには単色のグリーンディスプレイが標準のMZ-2000や、性能の低いPC-6001にまで移植されている。この機種の垣根を越えた広がりが、本作の長い人気の原因の1つとなっているのだ。

 家庭用ハードではファミコンに『ハイドライドスペシャル』として移植されていて、同作では続編で使用可能になった魔法も実装されている。ただ、低年齢層が多く攻略本によって情報が広まってしまうファミコンでは本作の面白さがイマイチ伝わらず、一部のプレイヤーからはクソゲーと評価されてしまっている。バッテリーバックアップの搭載こそないものの、電源を切るまで有効なセーブが可能であるなど、かなり前進的な機能を持っているのだが…。

 もしも、この記事を読んで本作を懐かしく思った方は、プロジェクトEGGの配信を利用すれば当時のPC-88版やX1版などがそのままWindows上でプレイが可能である。ただし、昔の思い出を大切にしたいと思っているのであれば、プレイは控えたほうがいいかもしれない。
(須藤浩章=隔週月曜日に掲載)

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