「昨季もストッパー不在のピンチに陥り、アンダースローの牧田(和久=27)が臨時クローザーを務めました。クローザーが固定されたことで、去年は後半戦に巻き返してクライマックスシリーズにも進出できたので、今季は『去年の牧田の役どころ』を涌井に務めてもらおうとしているのでしょう」
ネット裏のプロ野球解説者がそう語っていた。涌井の不振で「笑うに笑えない話」も広まっている。今季、パ・リーグにはもう1人、実績のある好投手が不振に陥っている。東北楽天・田中将大投手(23)だ。涌井と田中に共通すること−−。ともに、ダルビッシュを敬愛していることだ。田中がダルビッシュに投球フォームのマイナーチェンジを助言され、「キャンプ後半で元に戻した」経緯は繰り返すまでもないだろう。この投球フォームの改造が今季の不振を招いたとされている。
涌井にしても、そうだ。ダルビッシュとの友情を育んできたのは説明するまでもないだろう。ダルビッシュに強い影響力を受けた2人が揃って『不振』に陥ったのは、単なる偶然か…。「ダルビッシュからの技術的アドバイスを消化できず、2人とも本来の投球フォームを見失ったのではないか」との懸念も囁かれている。
そもそも、涌井の不振だが、情報を整理してみると、渡辺監督も「ある程度は覚悟していた」ようである。昨年は右肘の故障で『連続2ケタ勝利』もストップ(9勝12敗)。右肘故障の原因をさらに追求すると、「統一球への違和感」だという。
「涌井は統一球に対して『滑る』『しっかり握れない』という印象を抱いている。必要以上にボールを強く握り、肘への負担が増して故障に繋がった、と」(前出・プロ野球解説者)
しかし、涌井クラスの投手なら、今季開幕戦までにきちんと修正できたはずだ。
「キャンプでは右肘を庇い、例年よりも投げ込み数が少なかったんです。渡辺監督は本来の調子を取り戻すには時間が掛かると見ていました」(球界関係者)
今季、西武は新外国人のゴンザレスを『新クローザー』に予定していたが、防御率9.95と不調(10試合/0勝3敗)。同じく新加入のウィリアムス、カーターもイマイチで、2年目の大石達也も僅差のゲームを託すまでには至っていない。そういったチーム事情を考えると、不振の涌井を『暫定クローザー』にコンバートしたのは、渡辺監督の『やり繰りの巧さ』である。
投手出身の別のプロ野球解説者がこう言う。
「精神面での疲労を別にすれば、ストッパーはリリーバーのなかでも体力面での負担はそれほど大きくありません。セットアッパーは勝敗に関係なく毎日肩を作らなければなりませんが、ストッパーは『勝ち試合』限定。基本的に、僅差のゲーム展開の1イニングのみの登板になります」
懸念される右肘への負担は、問題なさそうだ。『暫定クローザー』を任すことによって、渡辺監督は涌井をもう一段階ステップアップさせようとしている。クローザーは強い直球を投げなければならない。そのためには強く腕を振る必要がある。そこで、統一球への違和感も払拭させようとしているのだろう。
昨季、牧田が『暫定ストッパー』にコンバートされたのは6月下旬。涌井は約2カ月早い配置換えとなった。渡辺監督は『クライマックスシリーズ進出圏』以上を意識している。