「現在は月形刑務所だけでなく、札幌刑務所と女子の札幌刑務支所の3カ所で月1回のカラオケ指導は欠かしません。豪雪で道路がアイスバーンになって運転が怖い時もありますが、受刑者たちが僕のカラオケ教室を楽しみに待っていることを考えると休むわけにはいきませんよ」
刑務所の中には暴力団あがりの受刑者も多い。
「受刑者にとってカラオケ教室は唯一、大きな声を出せる場所なんです。しかし、誰でも受けられるわけではない。受けるためには模範囚であることが条件。受けたいために模範囚になる暴力団組員も多いですね」
二美はカラオケ教室だけでなく、矯正ボランティアとして刑務所の慰問も続け、道内だけではなく、既に全国の刑務所も回っている。
「矯正ボランティアとしての活動は述べ1500日を超えています」
二美と一緒に道内の刑務所の慰問に行ったことがある歌手の小宮恵子は「長期受刑者が多い刑務所に二美さんと行かせていただいたんですが、私がステージに出て歌い始めると受刑者の中からすすり泣きが聞こえるんです。泣き声を聞いたら、プロとして情けないですが、私は歌えなくなってしまったんです。そのことを二美さんに伝えると、“塀の中に長くいるために人恋しさに涙が自然と溢れ出るんだ”と言ってくれてホッとしました」と語った。
二美の存在を知ったTBSのワイドショーは、二美を通じ、道内の刑務所に潜入取材を敢行。異例の聴取率を取ったことがあった。
「二美さんを通じて放送した刑務所潜入取材は16%という、ワイドショーとしては驚異的な数字を記録したんです。それほど、刑務所の中は視聴者にとって関心があるということですよ。現在も欠かさずカラオケ指導を続ける二美さんには頭が下がります」(元ワイドショーデスク)
二美は刑務所だけでなく、老人ホームや知的障害者厚生施設の慰問も続けている。
地道な活動の功績が認められた'09年には法務大臣から表彰を受けた。そして、昨年の4月には天皇陛下より藍綬褒章を受章した。
「受賞後、賞のお祝いとデビュー45周年を兼ねたディナショーを札幌のホテルで開催。350人が集まってお祝いしてくれました」
パーティーに参加した札幌市中央区の会社社長、滝野賢次郎さんは「何でも継続して活動するのは難しいこと。その点、二美は立派。それに、二美の歌はいつ聴いても、声量があり抜群にうまい歌で鳥肌が立つ」と絶賛した。
二美は「僕の本業は歌手。これからも女房に支えられながら歌い続けますよ」と言う。受刑者の更生ためにも歌い続けて欲しい。(文中敬称略)
二美 仁(ふたみ・じん)
1948年宮崎県出身。本名・村岡洋一。18歳で上京し、翌年歌手デビュー。'84年より北海道・月形刑務所の篤志面接委員に任命され、受刑者の更生教育にあたる。昨年4月、その功績から天皇陛下より藍綬褒章を受章。