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【コンピューターゲームの20世紀 46】「赤川次郎の幽霊列車」

 久々の再開となる今回は、この連載であまり取り上げることのなかったアドベンチャーゲーム(以下AVG)を紹介したいと思う。

 1991年に発売された『赤川次郎の幽霊列車』は、ミステリー界の巨匠・赤川次郎氏のデビュー作を原作に持つ作品だ。原画についてはわたせせいぞう氏、作曲は『ドラゴンクエスト』でゲームファンにはおなじみのすぎやまこういち氏が担当するという、何とも豪華なAVGである。

 本作はいわゆる「コマンド選択方式」のため敷居は低い。加えて本作にはゲームオーバーもなければ、コマンド選択方式の祖である『オホーツクに消ゆ』のように、ゲーム進行に多大なる影響を及ぼす厄介な仕掛けもなし。EDも一種類だけなので、調べられるところは全て調べ、かつコマンドを総当りすることにより、基本的には誰でもゲームをクリアすることできる。ただ、システム面に幾つか欠陥があり、あるいはこれが原因でゲームクリアを早々に断念した人もいるのではないだろうか。AVGの要となる会話シーンでは通常、ボタンをポチポチと押すだけで会話が成立するが、本作の場合、主人公の宇野喬一警部、もしくは自称私立探偵の女子大生・永井夕子を、わざわざ目的の人物の隣まで移動させなければならないのである。キャラの移動速度が早ければまだいいが、動きは緩慢。加えて会話終了からキャラが再び画面に表示されるまで数秒のインターバルがあり、結果的にこれがゲームのテンポを悪くしてしまっている。さらには致命的ではないにしろ、キー入力のレスポンスも全体的にイマイチの印象は拭えない。

 その一方、ファミコンのAVGとしてはなかなかに高品位のグラフィックを誇り、しかもそれが全画面で展開される。物語の舞台となるのは「岩湯谷(いわゆだに)」という架空の温泉町。場末のスナックや小さなパチンコ店など、温泉町特有のレトロ感にあふれ、すぎやまこういち氏作曲の哀愁漂うBGMも相まって、思わず一人旅に出たくなるような景色。これが実写だとなかなかこうはいかないのが不思議である。この郷愁感こそ、ドット絵とPSG音源の成せる業。嗚呼、懐かしき昭和の日々よ…。多少UI面の不満点はあるものの、自身のAVG好きも相まって、個人的にはかなりお気に入りのゲームなのだが、周囲で本作のことを知っている人はレトロゲーム好きも含め、残念ながら一人もいなかった。

 本作が登場したのは1991年で、この年のファミコン発売タイトル数は151本。これは1990年の157本に次ぐ多さだが、本作発売の前年には後継機であるスーパーファミコンが既に登場しており、先行していたPCエンジン・メガドライブ陣営も、破竹の勢いで普及しつつあったスーパーファミコンに負けじと、大容量のCD-ROMで対抗。なお、1992年にはファミコンとスーパーファミコンのタイトル数が一気に逆転している。本作はそんなハード過渡期に、終焉を迎えつつあるハードでひっそりと発売されたのだから、作品自体知らない人が多くても当然か。

 さて、この辺りで少しだけAVGの歴史を振り返ってみたい。AVGの誕生した1970年代の作品はテキストのみで進行する非常にシンプルなものだったが、1980年の『ミステリーハウス』において、初めてグラフィックが搭載された。テキストオンリーのAVGは日本ではほとんど普及しなかったが、グラフィックAVGは日本でも受け入れられ、『サラダの国のトマト姫』や『ポートピア連続殺人事件』など、ヒット作が次々に誕生している。なお、これらの作品はキーボードで簡単な単語を入力する必要があるため「コマンド入力方式」と呼ばれており、このキー入力の手間を省いたものが、本作・幽霊列車のような「コマンド選択方式」である。コマンド入力方式はその性質上、ゲームクリアに非常に長い時間を要したものだが、事前にコマンドが用意された選択方式は、ずっと短時間でクリアできてしまうのが玉に瑕。他のジャンルと比べてやり込み要素も乏しく、一度クリアしたらそれで終わりという欠点が長年克服できなかった。が、1992年の『弟切草』登場を機にその問題も解決。現在、日本においてはこのサウンドノベル(あるいはビジュアルノベル)がAVGの主流となっている。なお、厳密にいえばロールプレイングゲームや『バイオハザード』のような一部のアクションゲームも、AVGから分化したと言えなくもないのだが…。それはまた別の機会に論じてみたい。

 そろそろ話を幽霊列車に戻そう。本作はグラフィックやBGMだけでなく、そのストーリーも秀逸である。赤川作品を基にしているのだから当たり前だとの声も聞こえてきそうだが、そうではなく「原作よりもいい」のである。短編作品ゆえのボリューム不足を補うため、登場人物や新たな“殺し”が追加されていたりと、原作の良さを邪魔しない程度の絶妙な匙加減でアレンジされているのだ。ファミコン版に赤川氏がどの程度携わったのかは不明だが、原作好きの方にこそ触れていただきたい作品である。
(内田@ゲイム脳=隔週月曜日に掲載)

DATA
発売日…1991年
メーカー…キングレコード
ハード…ファミコン
ジャンル…アドベンチャー

(C)1990 キングレコード

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