楽天の三木谷浩史会長兼社長といえばプロ野球への新規参入を巡って“ホリエモン”こと堀江貴文ライブドア社長(当時)と鞘当てを演じた過去がある。いくら同社がネット通販をはじめ金融、旅行、証券、動画配信と多彩な事業を手掛けているとはいえ、航空関連は全くの異質ビジネス。それだけに「いったい、どんな魂胆があってのことか」と憶測を呼んでいる。
楽天がタッグを組んだエアアジアは2011年8月にANAホールディングスと合弁でエアアジア・ジャパンを設立、翌'12年8月に成田空港を拠点に就航したものの、10カ月後の'13年6月には経営方針を巡る対立から合弁を解消し、日本から撤退している。これに伴い、ANAが合弁会社を引き継ぎ、社名を『バニラ・エア』に改めている。エアアジアにとっては今回、仕切り直しの日本再参入という格好だ。
7月1日の記者会見で同社のトニー・フェルナンデスCEOは「アイム・バック(私は帰ってきた)。今回は素晴らしいパートナーに恵まれ、日本の航空業界を一変させたい」と満面の笑みを浮かべた。同席した三木谷会長も「LCCは情報技術が生んだビジネス。チケット販売や機内サービスでお手伝いできる」と、詰め掛けた記者団を前にご満悦だった。
楽天は、日本企業では最大の出資比率18%。他にも化粧品会社ノエビアホールディングス、スポーツ専門店アルペンなどが出資している。日本法人であるエアアジア・ジャパンは資本金70億円だから、楽天は12億6000万円を拠出した計算だ。日本への再参入に当たって、なぜ楽天に白羽の矢が立ったのか。
記者会見の席でフェルナンデスCEOは三木谷会長を「テクノロジーに明るく、政府にものを言えて、日本の航空市場に革命を起こせる人」とヨイショし、「楽天はさまざまな事業に投資している。無料通話アプリのViverや動画配信サービスのViKi、SNSのピンタレストなどは全てエアアジアの中で使える」と、IT技術に精通した楽天とのタッグに大きな期待を寄せた。
「むろんリップサービスもあるが、そこは百戦錬磨のツワモノで知られるフェルナンデスCEOのこと。三木谷さんの政治的な利用価値に着目したのは疑う余地がありません」
航空アナリストはそう断言する。意外と知られていないことだが、エアアジアは今年3月に再参入に備えた準備会社AAJRを愛知県常滑市に設立、5月に商号をエアアジア・ジャパンに改めた。そんな最中の4月10日、東京で講演したフェルナンデスCEOは「2015年をメドに日本へ再参入する」とリターンマッチへの意欲を明かし、合弁相手の条件として「航空事業の経験がない会社で、政策への影響力を持ち、航空業界に革命を起こす意欲を持っていること」を挙げていた。
「あの時点で三木谷さんと大筋で話がついていた可能性がある。彼はサッカー、イングランドのプレミアリーグ、クイーンズ・パーク・レンジャーズのオーナーで、ヴイッセル神戸オーナーの三木谷さんとは一緒にサッカー観戦したばかりか、今や『トニー』『ミッキー』と呼び合う間柄。規制緩和の旗振り役を自負し、自民党政権と太いパイプを持つ三木谷さんを抱き込めばビジネスチャンスが一気に開ける。その誘いに、同じ野心家で商魂たくましい“ミッキー”が応じたという図式です」(同・アナリスト)
新生エアアジア・ジャパンは着陸料などコストの高い成田を外し、中部国際空港(セントレア)を拠点に来年夏、国内2機体制で就航し、年内に4機体制に拡大するという。しかしセントレアは成田や羽田、関空などに比べると、背後の人口規模はもちろん、乗り換え便など交通アクセス面でも見劣り、ビジネス的なうま味に乏しい。これを打破し、羽田進出どころか海外に打って出るには政治力に長けた三木谷会長の突破力が不可欠である。そこでフェルナンデスCEOが旧知のミッキーを“拝み倒した”との見立てだが、市場関係者は「エアアジア側が後でホゾをかまなければいいが」と指摘する。
「三木谷さんは経団連に対抗して『新経済連盟』という経済団体を立ち上げたばかりか、政府が主催する産業競争力会議の民間議員に抜擢され、一部から“平成の政商”と陰口されている。その分、商売熱心で敵が多い。本人は航空業界に風穴を開けるつもりでしょうが、どこで足を引っ張られないとも限りません」
三木谷会長と一蓮托生を決め込んだエアアジアが乱気流に巻き込まれたとしても、自業自得というものだ。