出井氏が退任したのはこの6月。同氏は東証1部上場だった吉本興業の上場廃止の仕掛け人で、なおかつ実行役だった。そのため吉本が出井氏を切ったのか、それともその逆なのか、見解が分かれている。
ソニー出身の出井氏が代表をつとめる投資会社『クオンタム・エンターテイメント(以下、クオンタム社)』に、吉本興業が506億円で買収されたのは'09年9月のことだった。
『クオンタム社』は吉本興業の全株取得を目的に株式公開買い付け(TOB)を実施。吉本興業もこれに賛同を表明し、買付価格は1株当たり1350円。TOB完了後、吉本興業は上場廃止となった。
『クオンタム社』は、出井氏が立ち上げた経営助言会社『クオンタムリープ』が設立した投資会社。出井氏の調整でTOBの決済までにフジテレビなど在京民放キー局5社の持株会社や電通、ソフトバンク、岩井証券などから合計240億円を調達。三井住友銀行、住友信託銀行、みずほ銀行からも上限300億円の融資を受け、吉本興業を買収し、完全子会社化した。
翌'10年に吉本興業とクオンタム社が合併し、今の新生・吉本興業となった。
このカラクリを考えたのが出井氏で、吉本にとって足を向けて寝られない恩人ともいえる。それがナゼ? というわけだ。
「上場廃止を吉本の大崎洋社長に勧めたのは、出井氏といわれる。狙いは筆頭株主である『大成土地』の追い出しでした。同社は創業者一族の持ちモノでしたからね」(吉本興業関係者)
だが、上場を廃止してから“2人のドン”の関係にズレが生じてきたという。
出井氏イコール『クオンタムリープ』の持ち株はわずか60株、保有率は0.01%。だが、大崎社長に対しての発言力は強く、ときどき意見の対立があったという。
「すでに上場廃止も済み、時間も経っているということで出井氏が取締役でいる意味がなくなったと判断されたのでしょう」(前出・吉本興業関係者)
それにしても、役員を辞めただけで話題になるとは、出井氏の神通力はまだ衰えていないということか。