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【不朽の名作】独自のSF設定でかぐや姫を描いた「竹取物語」

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 今回は1987年に公開された市川崑監督の『竹取物語』を紹介する。原作は「物語のいで来はじめの祖」と呼ばれる日本史上最古の物語であるが、この作品では、独自解釈のSF要素を入れることで、歴史SFドラマというような方向性となっている。

 そのSF要素とは、原作では月へ帰ったという点を、より明確に月からきた地球外生命体とし、UFOなど、当時ブームだったアイテムを盛り込むという形にしたところだ。なお、主役の加耶(かぐや姫)は沢口靖子が演じている。他にも、かぐや姫の父親がわりになる竹取の造を三船敏郎が、母親がわりの田吉女の若尾文子が演じ、さらに大伴の大納言を中井貴一、帝役を石坂浩二にするなど、当時の有名俳優をそろえた形の作品だ。総製作費約20億円、当時としても現在においてもかなりの予算を費やして完成した作品といえる。

 映像に関しては予算の潤沢さを示すように、服装も雅やかで、作品の舞台である平安初期の雰囲気がよく出ていると言えるだろう。建物の内装などもかなり質感にこだわっているようで、安物っぽい印象は受けない。冒頭の牛車が駆ける大通りも、奥のほうまで建物が設置されており、かなり色彩的に美しいものとなっている。

 さて、『竹取物語』というと、日本人ならば古典を読まずとも、絵本などでなんとなく、大まかなストリーラインは知っている話だ。2013年に制作されたスタジオジブリのアニメ映画『かぐや姫の物語』では、大筋の改変はほぼなしで話を進めたが、この作品では、SF要素を盛り込む他にも若干の改変が見られる。まず、原作の男を翻弄するファムファタール(運命の女)としてのかぐや姫の要素を極力抑えている点があげられる。常識の通じない、どこか超人めいた部分のあるかぐや姫を、普通の“女性”として描こうとしている印象を受けるのだ。そのことにより、かぐや姫に、あるかも定かではない宝物を探してこいと、無理難題を吹っかけられるひとりである、大伴の大納言の扱いが良くなっている。かぐや姫が、大伴の大納言だけは本気で「龍の首の珠」を探してくると信じている描写があり、探してきた暁には結婚しようと明確に思っているのだ。

 あとは帝の立ち位置も若干変わっている。かぐや姫を得体のしれない存在だと思っている点では同じだが、原作ではかぐや姫に心を奪われる役どころとなるのが、側近たちが公務をほったらかして宝物を探しに行ったことに憤り、かぐや姫をあくまでも権力者として、積極的に自身の管理下に置こうとする立場になっている。そういった物語展開上の理由もあり、本来帝がやるべき役割の部分を、大伴の大納言が代行している部分もある。他にも、盲目の少女・明野が所々でかぐや姫に助言する立場で出てきたりと、原作からの改変が見られる。

 しかし、そういった改変により、ストーリーに斬新さを覚えるかと思うと良くも悪くもそうではない。大筋ではかぐや姫の心境がどうであれ、男たちを翻弄しているのは確かで、しかも故郷に最終的に帰ってしまうのも一緒なので、そこまで大きく変わったという印象は受けない。まあ、主役であるかぐや姫が嫌なキャラクターであるという悪いイメージを受けないことでは、大勢に観てもらう映像大作としては正解だろうが。沢口の演技もそのキャラ設定に合っており、異星人らしい掴みどころのない部分もあるが、原作のように男への軽蔑の眼差しだけではなく、ちゃんと恋愛感情もあり、悪女っぽく見えるというよりは、意思の強そうな女性という印象だ。

 ストーリーの改変と共にこの作品で注目なのがSF要素だが、こちらは現在とは比較にならないほどUFOや地球外生命体に関する特集番組が組まれていたこともあり、クライマックスのUFOの描写にはかなりの気合が入っている。CGもない時代にここまでの造型を表現するのは結構大変だったのではないだろうか。とはいっても、やはりエフェクト合成に関しては、若干安っぽさを感じてしまうが…。

 ちなみに、この作品より10年前に公開された洋画の『未知のとの遭遇』の影響があるのか、似たような演出が所々で見られる。あと、龍と戦う大伴の大納言のシーンも龍がどこか安っぽい。製作会社が東宝ということで、同時期のゴジラシリーズと同じ技術が割かれているはずなのだが、やっぱり武器が弓矢とモリで、火薬が使えない影響なのだろうか。それでも、SF要素の部分では、市川監督得意のおどろおどろしい演出が光り、得体のしれない雰囲気を感じることができるので、観ていて飽きないシーンにはなっている。

 後は劇中の会話に関してなのだが、ほぼ現代風の言い回しとなっている。題材が題材なので、子供でもわかり易くと配慮した結果なのだろう。もちろん、平安時代当時の言葉そのままでやれば、現在と表現が違い過ぎて、意味がよくわからないのは確実なのだが、もう少し言葉のチョイスを考えてくれたらもっと雰囲気が出たかもしれない。とはいえ、当時のUFOブームなどを受けた、挑戦作としては良くまとまっており、結構楽しめる作品だ。

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

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