最強の1勝馬といえば、ディープインパクト世代のシックスセンス、昨年のローレルゲレイロ…。オールドファンならロイスアンドロイスという名が挙がるかもしれない。
今年もその“不名誉”な称号を受け継ぐ馬がいる。タケミカヅチだ。
昨夏の2回新潟で鮮烈なデビュー勝ちを飾り、続く新潟2歳Sでもエフティマイアの0秒5差6着と善戦。重賞Vも時間の問題かと思われたが、それから丸1年、勝利の女神がほほ笑むことはなかった。
新馬戦の後はダービーまでの8戦、すべて重賞にチャレンジしてきた。そのうち、掲示板に載ったのは6回。皐月賞ではキャプテントゥーレがマイペースの逃げに持ち込んだなか、上がり3F34秒7の決め脚で中団から一気に差を詰め、2着を確保。一番強い競馬をした。
でも、銀メダルでは意味がない。「いつもいい脚を使うんだけどなあ」。大江原師がレースが終わるごとに、悔しさをにじませていたのを思い出す。
そして、春最終戦となったダービー。陣営が何とかタイトルを獲らせてやろうと努めてきた結果、気がつけばタケミカヅチは休みらしい休みを一度も取ることなく、競馬の祭典を迎えていた。結果は11着と惨敗。デビュー以来、初めて味わう屈辱の2ケタ着順だった。
「バテてはいなかったと思うけど、距離だったのかなあ。目に見えない疲れでもあったのか、何度もビデオを見直したけど、そういう感じでもなかったし…」
納得のいかない敗戦に、師は首をかしげるばかりだった。しかし、落ち込んでばかりはいられない。秋への雪辱を期し、夏場はリフレッシュ放牧に出された。
「牧場では疲れを取ることに専念して、お盆の少し前に帰厩した。戻ってきた時にちょうど涼しくなったし、夏バテはしていないよ。体つきは変わっていないけど、もともといい筋肉がついている馬だからね」
2歳戦の戦績を見ても完成度はもともと高かった。だが、成長度はそれほどなくても、上昇の余地は十分残している。初めて与えられた“命の洗濯”。この間にたっぷり英気を養った。
それを体現したのが坂路で行われた10日の1週前追いだ。800m49秒1→35秒9→計不の好時計を楽々とマーク。指揮官は「ハミをかんで、気合の入ったいい動きだった。かなりやってきたから、重いってこともない」と胸を張った。
菊花賞での展望を切り開くため、タカミカヅチが善戦マン返上へ初戦から全力投球の構えだ。