TBSの横浜球団身売り問題は今に始まったわけではない。ここ数年、身売り情報が流れては立ち消えになるという繰り返しだった。「買い手があるのならば、今すぐにでも売りたいが、こんな弱い球団では買う企業も出てこないし、実際に売れないのだから」。TBS関係者がこう嘆く悲惨な状況だった。
それだけに、住宅設備メーカーの「INAX」、建材メーカーの「トステム」、住宅関連企業の「東洋エクステリア」を傘下にする持ち株会社「住生活グループ」との身売り交渉にかけるTBS側の期待は大きいだろう。が、もし値段が折り合わずに決裂となったら、TBS、横浜球団だけの問題に止まらない。球界再編の動きが再燃するのは間違いないからだ。
「どうしても身売りがうまくいかなければ、買い手がつかなくても球団を手放してしまえばいい」。TBS関係者の間からは、こんな物騒な声まで出ているという。そもそもTBSは持ちたくて球団を持ったわけではない。マルハから横浜球団を買収しようとしたのは、ニッポン放送で、一度は正式な球団売買の記者会見までしている。それをひっくり返したのが当時巨人のオーナーだった渡辺恒雄・現巨人球団会長だ。
「フジサンケイグループはヤクルトの株も持っている。2球団にまたがるのは野球協約違反だ」と異議を唱え、「同じマスコミのTBSが球団を持てばいいんだ」と、TBSの横浜球団買収をごり押し。TBSは仕方なく受け入れた経緯がある。それだけに、球団経営に消極的で「なんでTBSは本腰を入れた球団経営をしないのか」と球界OB、関係者から常に批判され続けている。そのTBSが今回の住生活グループとの交渉に失敗して居直り、球団を丸投げしたら、球界はパニックに陥る。
「この大不況の最中だけに、一番怖いのは球団を投げ出されてしまうことだ。大リーグ機構(MLB)は財力があるので、実際に緊急措置として破綻した球団保有をしたことがある。が、NPBには絶対に無理だ」。球界関係者は、球団丸投げの非常事態が起こることを何よりも恐れているからだ。
だから「球界への新規参入のハードルを低くするべきだ。25億円の預かり保証金など廃止した方が良い」という声が強い。この預かり保証金制度は、オリックスが阪急ブレーブスを球団買収したことが契機になっている。「オリエントリースからオリックスへと本社の企業名を変更するPR効果を狙っての球界参入だから、知名度が広まったら2、3年後にすぐに身売りするのではないか。球団身売りがコロコロ行われてはたまらない。そういうことを阻止するためには、高額な預かり保証金を取り、最低でも10年間は球団を保持しないと返却しないという制度が必要だ」ということで、預かり保証金制度を作ったのだ。
マルハからTBSが横浜球団を買収した際には、ごり押しした手前、巨人・渡辺球団会長が旗振り役を務め、特例として預かり保証金はなしとなっているが、ダイエーから球団を買ったソフトバンクは支払っている。今回、この預かり保証金25億円がネックにならない保証はない。そして、TBSの球団丸投げ→球界再編再燃という最悪のシナリオも完全否定できない。NPB関係者、11球団のオーナーたちは、TBSと住生活グループの今後の交渉を固唾を呑んで見守るしかないのが現実だ。