「ただ寝付けないだけでなく、せっかく眠れても夜中に目が覚めてしまう。人に勧められて安眠グッズなどの商品を試したが効果がない」
こう嘆くのは、都内に住む会社員Kさん(50)。とくに最近はひどく、布団に入ったのに何時間も寝付けない。眠れないので考え事をしてしまい、かえって目がさえてしまう。
「結局、会社に行っても集中力が出ない。昼食を取れば眠くてどうしようもなくなるんです。仕事に支障が出るし、体調もすっきりしない日々が続きました」(同)
精神的にも不安定になったため、Kさんは思い切って医療機関で治療を受けることにした。
「先生との問診を繰り返すうち、体のどこかが悪いとか、肉体的に欠陥があるわけではなく、生活習慣を改善することで良質な睡眠が取れるようになることがわかったんです。指導に従って意識改革して努力をしたら、徐々に熟睡ができるようになり、気持ちも落ち着きました」(同)
誰もが子供の頃はぐっすり眠れていたのに、大人になると不眠に悩む人が増える。そんな人が、'96年に約43万人だったのが、'08年には何と104万人以上(厚労省調べ)と、2倍以上に膨れ上がってしまったのだ。
厚生労働省が今年3月に公表した「健康づくりのための睡眠指針2014」によると、一晩の睡眠時間は人それぞれだが、成人後の一晩の睡眠時間は20年ごとに30分程度減少し、早寝早起きの傾向が強まっているという。
同指針では「日中の眠気で困らない程度の自然な睡眠が一番」とし、午後の早い時間帯に30分以内の短い昼寝をすることが作業能率の改善に効果的だと明記している。
指針の検討委員会座長を務めた日本大学の内山真・主任教授(精神医学)は「体を横たえずに、椅子にもたれて目をつぶるだけでもリフレッシュする」としているが、注意も必要で、「30分以上眠ると起きてから頭が働き始めるまで時間が掛かり、かえってよくない」とも話している。
また、仕事に支障を来たすほどの眠気は睡眠不足のサインで、「慢性的な睡眠不足は昼寝では補えない。毎日十分な睡眠を取り、体調を整えることが基本」と強調している。
「人生の3分の1に当たる睡眠時間は大変貴重です。もし睡眠不足に陥ったり悩んでいるなら、1日でも早く是正し、快適な日常生活が取り戻せるようにしないといけません」
と、“脱ダメ睡眠法”を説くのは、東京社会医療研究所の片岡幸誠主任だ。
「私たち人間は、朝起きてから寝るまでは“活動”であり、夜寝ているときは“休息”です。健康的な人生を送るには、活動と休息のバランスがとれていなくてはいけません。日中、過度、あるいは過少な活動、加えて就寝前に間違った活動をすれば、眠りは自ずとダメになる。そもそも眠りは、休息のためにあるのではなく、活動のためにあるもの。いい眠りは有益で効果的な活動に結びつくし、健康的で人生を豊かにすると思います」(同)