数々の名馬を育ててきた角居厩舎のスタッフも驚いた。「前走から間隔が詰まっているのに、さらに状態が一気に上向いてきた感じです。すごい馬ですよ」と平間助手は笑みを浮かべた。その舞台の重みを、そこで自分がなすべきことを、ウオッカは一番分かっている。
極上の仕上がりだ。前走の毎日王冠を叩かれ、定石通り、いやそれ以上の上昇カーブを描いている。「レース後、もっと疲れが出ると思っていたんだけど、まったく問題なかった。体にはボリュームが出てきたし、何より馬自身が戦闘モードになっている。スイッチが入りましたね」
それをはっきり示したのが、23日の1週前追い切りだった。栗東坂路。800メートル52秒7、ラスト1Fは12秒4と素晴らしい切れ味を発揮した。朝一番のきれいな馬場状態だったとはいえ、その動きは男馬も震え上がる迫力だった。
脚部不安で凱旋門賞を断念した昨秋、そしてドバイ遠征の疲れが尾を引いた今年の春。ダービーを制した後は万全といえる体調でレースを迎えることが少なかったが、この秋は違う。「夏場を栗東での調整にあてたことですごく順調にきた」と自信を持って再度、東京に乗り込める。
毎日王冠は2着だったが、スローペースのために思わぬ逃げ。勝ったスーパーホーネットの格好の標的になってしまった。しかし、天皇賞・秋は例年、ハイペースだ。「自分の形で競馬ができれば本当に強い」。今度はじっくりためて切れ味を生かせるはず。体調の上積みを考慮すれば、十分勝利に届く計算が成り立つ。
ダービー馬ディープスカイなど牡馬もメンツがそろったが、今年の「秋盾」は女の舞台。ダイワスカーレットとの女王対決へ、そして史上最強の牝馬の座へ。何も不安のなくなったウオッカが、大きく踏み出そうとしている。
休み明けと侮れるなかれ。マツクニ流のハード調教で、ダイワスカーレットがきっちり仕上げられてきた。
圧巻だったのは23日の1週前追い切りだ。まず角馬場で2000メートルのダクを乗られ、坂路で800メートル58秒8をマーク。たっぷりと汗をかいた後の坂路2本目がいよいよ本番だ。テンから飛ばして4F52秒0、ラスト1F12秒9。この中身の濃さはまさに男勝り。ビルドアップされた栗色の馬体は、休養前といささかも変わっていない。いや、それ以上の輝きを発している。
「少し行きたがったけど、動きや息の入りは休む前とまったく一緒。いい感じできている。ここまで何本も追い切ってきたし、跳びのリズムも変わりない。ちょっとイライラしてテンションが高いのが気になるけど、この1週前調教がいいガス抜きになれば」と安藤勝騎手はうなずいた。
大阪杯を圧勝した後、脚元に不安が発生。春のGIは全休せざるを得なくなった。しかし、もう心配いらない。失われた時間を取り戻す態勢は整った。
注目を集めるウオッカとの同世代女王対決。昨年の牝馬3冠のうち、2頭が出走した桜花賞と秋華賞はいずれもスカーレットの完勝に終わっている。古馬の頂上舞台で3度宿敵を下せば、最強牝馬、いや現役最強馬の座を手にすることになる。
「繊細な牝馬だけに初めての東京が気になるけど、そのあたりは返し馬でじっくり落ち着かせたい。上がりの速い今の東京はこの馬向き。力を信頼して乗る」
逃げて、上がり3Fを33秒台でまとめる驚異の瞬発力と持久力。ミスパーフェクトが力を出し切れば、だれも追いつけない。