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2010年 夏の甲子園ダークサイド情報(3)〜切実な声「地元に愛されたい!」〜

 中部圏の私立高校が初優勝した年、筆者は信じられない光景を目の当たりにした。同校の最寄り駅は閑散としていた。普通、地元住民が「郷土の名誉」などと言い、お祭騒ぎになっているものである。少なくとも、最寄り駅か近隣商店街に「おめでとう」の垂れ幕くらいは出ているものだが、そういった祝福ムードは全く見られなかった。
 「だって、あの高校(のベンチ入りメンバー)は地元の子が1人もいないじゃないか!?」
 地元住民のシラケた声を聞かされたが、実際は違う。地元出身者もいた。他県出身者が牽引役になったのは事実だが、近隣住民は「地元出身者がいない」と決め込んでいたのだ。優勝した彼らは学校に戻ったとき、このシラケた雰囲気を見せられ、どう思うだろうか…。
 07年の裏金・越境入学問題以降、どの高校も野球留学生の受け入れに積極的ではなくなったが、『強豪校=地元出身者ナシ』の偏見を持った大人も少なくないようだ。

 高校野球にとって、『最大の敵』はご近所ではないだろうか。
 “ご近所付き合い”は、高校野球の練習光景も変えてしまった。一昔前は、球児たちの雄叫びがグラウンド中に響き渡っていたのだが、今は違う。
 「雄叫び? そういう学校は羨ましいですよ」(40代の監督)
 雄叫びができない学校もあるという。
 都内某私立高校では、10年ほど前から『雄叫び』を禁止した。その理由が凄い…。近隣住民から「うるさい!」との苦情が絶えず、学校と町内会が話し合った結果、「打撃練習等の打球音を許してもらう代わりに、雄叫びは絶対にさせない」ことになった。
 確か、その某私立高校は創立して50余年が経っているはずだが? 
 「いやね、学校ができたころ、周りは田圃や畑だったんです。でも、住宅街になっちゃって。ご近所の皆様にも応援していただきたいので…」
 立地環境といえば、こんな話もある。関東圏の某高校は、最寄り駅から徒歩で30分ほど離れたところにある。甲子園の予選が始まると、球児たちの通学路を変更させるのだ。
 「最寄り駅までの途中に風俗街があるんですよ。一部生徒は風俗店の多い通りを『抜け道(近道)』として利用しているらしいんですが、一部の心ない大人がありもしない噂を流すんです」(学校関係者)

 千葉県のある公立高校も近隣住民との衝突に悩んでいた。
 「野球部員が道いっぱいに広がって歩いている。自転車が通れないから、注意しろ!」
 野球部員は目立つ。学校名を刺繍した大きなバッグを持って歩いているからだが、「横に並んで歩くのを辞めろ」とは、言い掛かりもいいところである。しかし、「野球部がいるから、電車で座れない」「買い食いするな!」などの苦情電話があまりにも続いたため、同校の指導者は開き直ったように、「通りすがる人、全員に挨拶しろ! 電車で座るな!」と、野球部員に厳命した。
 ちょっと前、甲子園で旋風を起こした北海道代表校が出場停止に追い込まれた。3年生部員が卒業式当日、居酒屋で騒いでいるところを見つかり、残された1、2年生部員はセンバツ大会を辞退した。非は飲酒の罪を犯した3年生部員にあるが、改めて地元住民に聞いたところ、意外な真相が判明した。
 「警察に通報したのは、隣の学校の野球部員なんですよ。両校の3年生が居酒屋で鉢合わせになり、口論になったんです。隣の学校の生徒は自分たちだけさっさと店を出て、警察通報したんです」
 その証言が本当なら、口論に負けた腹いせ、その学校に対する嫉妬もあったのではないだろうか。

 高校野球が嫌いな人もいるだろう。あるいは、何か特別な理由があって、その学校を応援できない人もいるかもしれない。
 昨夏の大分県代表校・明豊を取材したときのことだ。明豊は練習終了後、一般観戦者の前にも整列し、「本日は応援くださり、有り難うございました」と頭を下げた。一般観戦者も彼らに拍手を贈っていた。地元住民との円満関係を築くヒントは、同校にあるような気がする。(スポーツライター・飯山満)

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