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“忍法ブラック返し”パート・バイト正社員化に秘めたユニクロ柳井会長の不徳

 カジュアル衣料品店『ユニクロ』を運営するファーストリテイリングが、6月からパート、アルバイトの正社員化に着手した。国内の店舗で働く非正規スタッフ約3万人のうち1万6000人を順次、地域限定の「R(リージョナル)正社員」とする試みで、これまでの時間給と違って月給制となり、賞与も支給する。国内転勤型の「N(ナショナル)正社員」に比べると年収では見劣る反面、短い日数や短時間の勤務も認めるとのことで、転居を伴う転勤がなく子育てと仕事の両立が可能など、確かに画期的な人材登用システムである。
 かねて柳井正会長兼社長は「少子高齢化により、今後は人材が枯渇していく。時給1000円で人が集まる時代は終わりを告げた」と公言していた。パート正社員化は、その持論を踏まえてのことに違いない。

 ところが、市場関係者は“忍法ブラック隠し”と斬り捨てる。ユニクロは学卒など新入社員の半分近くが3年以内に次々と辞めていくことから「ブラック企業の横綱」とまで陰口されている。そんな企業イメージを一掃する早道はパート、バイト組を大量に正社員として迎えることだ。
 そうすれば他の“ブラック”呼ばわりされている企業のように深刻な人手不足に悩む必要がないばかりか、社員の定着率が飛躍的に高まって収益が安定する−−との論法である。しかし、1万6000人を社員化すれば給料や社会保険料などの人件費負担がズッシリ重くなるのは自明の理だ。
 「負担増を補うには店舗の業績アップしかありません。しかし、好調な海外とは対照的に国内ユニクロ事業は市場縮小が止まらず、採算性の悪化が危惧されている。ユニクロが正社員1万6000人のアドバルーンを掲げながらも達成の時期を明言できないのは、大幅にアップする人件費増にどう対応すべきかの処方箋を描き切れず、走りながら考えようとしているからに他なりません」(市場関係者)

 ユニクロウオッチャーは柳井社長の決断を「またゾロ、彼一流の軌道修正癖が始まった」と苦笑する。ユニクロ事業の8割は国内が稼ぎ出すが、国内ユニクロ事業の売上高は2期連続で前年を下回っている。そこで柳井社長は成長の軸足を海外に求めたのもつかの間、今度はパートとバイトの正社員化を打ち出すことで国内志向を鮮明にした。
 それだけではない。ユニクロは7年前に今回同様、契約社員を対象に正社員化の制度を発足させ、対象者5000人全員の正社員化を目指したが、最終的に応じたのは1400人余りと不評だった。そこで制度を凍結、ブラック企業批判で外食産業が店舗閉鎖に追い込まれるや、昔の手法を修正して堂々と復活させたのである。前出のウオッチャーが続ける。
 「だけど柳井さんは、世間の批判などどこ吹く風です。彼は前から『65歳での社長引退』を宣言し、今年の2月で65歳になったのですが、去年の秋に早々と『残念ながら続投するしかない』と宣言、アッサリ撤回している。それぐらいだからグループの役員を務める2人の息子について『絶対に世襲しない』と公言してきたにもかかわらず、今回の大量正社員化に関連付けて一部では『さては世襲シフトではないか』と騒々しい。“正社員”が定着し、世間が抱くブラック企業のイメージを一掃できれば、御曹司社長への道が一気に開ける。海千山千の柳井さんが、その辺を計算しないわけがありません」

 柳井社長は事実上、一代で売上高1兆円企業を築き上げた。2人の御曹司はともに発行済み株式の4.5%を保有する第5位の大株主である。まして父親の柳井社長は「アクの強いワンマン経営者」(関係者)として知られ、後継者に迎えた人材や社長候補に挙げられた面々を「テイよく追い出した」(同)経歴の持ち主。それだけに6月から始めたパート正社員化が、用意周到に仕組まれた世襲へのステップと映るのも無理はない。
 ところが、ユニクロOBは「筋金入りのブラック体質が、そう簡単に改まるかは疑問です」と打ち明ける。
 「学卒の正社員が長時間労働やパワハラなどに悲鳴を上げて集団脱走したぐらいです。今度は正社員になったパート・アルバイトたちが同じ運命をたどらないとも限らない。正社員として迎えられる人たちは、特に主婦が多く、そうなれば家庭を巻き込む分、社会に与えるインパクトは大きい。これで彼女たちが敵に回ったら、ユニクロの前途が思いやられます」

 勤務条件にもよるが、正社員は年収300〜400万円とされる。パートに比べれば高給だが、当然ながら会社の要求は格段に高まる。これをどうクリアし、企業体質の転換を図るのか−−。そこに“後継者キラー”が率いる同社の命運が懸かっているのだから、実に皮肉である。

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