同興行は米山香織(30)の引退興行として開催された。米山はこの日、メーンイベントで春山香代子と対戦。18分49秒、ダイビングギロチンドロップからの片エビ固めで敗れた。
試合後には先輩レスラーや関係者が登場し、米山の労をねぎらい、セレモニーの最後として、10カウントゴングが鳴らされていた。ところが、この最中に米山は「待ってください!」とゴングをストップ。すると、同団体のリーダー的選手であるコマンド・ボリショイがリングに上がり、「引退発表したからって、無理にやめなくていいよ」と発言。米山は「私、やめたくないよ。引退が決まってから、プロレスをもっと好きになっちゃって。でも、もう引き返せなくて、どうしよう」と号泣。
そこに、来年1月8日、東京ドームシティホールで自身の引退興行を開催するブル中野(元全日本女子プロレス)が現れ、同大会への出場オファーを意味する封筒を手渡し、受け取った米山は「プロレス引退、撤回します」と発言。「嫌われても応援されなくなってもいい。もう2度と引退試合できないかもしれないけど、覚悟を決めて、この大好きなリングに上がり続けます」と現役続行を宣言した。
過去に似たようなケースはあるにはある。“鬼嫁”として、精力的にタレント活動もしている佐々木健介夫人の北斗晶は、94年11月20日の東京ドーム大会(全日本女子プロレス主催)を最後に引退することをほのめかしていたが、試合後に引退発言を撤回した。また、安藤あいか(アイスリボン)は、08年8月28日の東京・新木場1st RING大会でプロレス卒業マッチを行ったが、試合後に撤回した。ただ、安藤はもともとタレントで、その活動の幅を広げるためにプロレスをやっており、引退と卒業とではニュアンスが違う。
リングで繰り広げられたやりとりを見る限り、引退撤回は米山のその場での思い付きではなく、事前に決まっていたことは明らか。この日、会場に詰めかけたファンの大多数は、米山の最後の雄姿を見るために来場したはずだ。米山は7月に年内引退を表明したが、それ以降、「引退するのなら」と彼女の試合を目当てに観戦に訪れたファンを裏切ったことになる。
いくら、エンターテインメント性の高いプロレスとはいえ、やっていいことと悪いことがあるだろう。米山の気持ちが変わった時点で、JWPは事前に引退撤回を発表する必要があったのではないか。さすがに、引退試合を行った後のセレモニー最中での引退撤回は、なんとも後味が悪いものだ。
(落合一郎)