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【不朽の名作】下品な大股開きが一番印象に残る「マルサの女」

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 葬式、ラーメン、スーパーマーケットなどなど、普通の作品ではありえないような題材をテーマにして映像にしてしまうのが、伊丹十三監督だった。その中でもおそらく一番有名なのが『マルサの女』(1987年公開)だろう。

 この作品は国税局査察部(通称=マルサ)をテーマとし、そこに勤務する女査察官・板倉亮子(宮本信子)と、巨額脱税の疑惑がある権藤英樹(山崎努)を中心に、脱税者との戦いをコミカルに描いたものとなっている。「マルサ」という言葉が一般に広まったのもこの作品がきっかけだと言われている。

 主人公がガッチリとお役所(体制側)にいるというのは、実は当時の邦画ではけっこう珍しい。70〜80年代中盤までの映画というのは、とにかく破滅しようが成功しようが、反体制側であることが映画の絶対条件であるような状況だったらしい。この辺りはアメリカン・ニューシネマの影響や、当時の邦画界の思想的事情が大きく関連しているらしいが、まあ、そのへんは詳しい本が他にあると思うので、これ以上の説明はしないとしよう。

 同じ体制側の作品としては、刑事モノなどもあるが、当時の刑事モノというのは、アウトロー系の主人公が多い。しかし、この作品の主人公・亮子には、命令違反などの描写はない。それどころか、亮子がマルサになる前の、港町税務署員時代から作品がスタートするため、地元の飲食店や商店にまでネチネチと徴収して相手と衝突するシーンまで描いて、融通が利かない人間であることを強く描写している。それなのに観ていて不快感があまりないのは、会話のテンポと台詞選びのおかげだろうか。理路整然と追い詰めようとする亮子に屁理屈をこねたり、わめいて対抗する脱税疑惑者たちの姿に思わず笑ってしまうのだ。

 他にも、前半はまだマルサではない亮子が、脱税実業家やヤクザ、銀行などに上手く丸め込まれていたのに、マルサとなって畳み掛けるように逆転する物語の運び方もとてもうまい。

 さらに視覚的にも、強烈に印象に残るシーンが多い。主に下品な方向で。そもそも導入から、いきなり看護婦(看護師)の乳首にしゃぶりつく老人からスタートという謎のサービスぶりである。おそらくこの作品を観た時に、一番印象に残るのは、マルサの活躍ではない。脱税疑惑で、おばちゃんがガサ入れを受けている最中に、潔白を証明するために「女はココに隠すんじゃー!!」と全裸になって大股開きになるシーンだろう。

 わめいて服を脱ぎ、さらに下着を投げ捨て、布団に寝転び、それに驚愕するマルサの花村(津川雅彦)の表情まで流れるようなシーン移動に、爆笑間違いなしだ。しかも隠し金庫の鍵を、亮子が台所から見つけるというオチつき。このシーンは、亮子がマルサになって初めてのガサ入れでもある。ここで、笑いと同時に、今まで以上にとんでもない相手と戦わなければならないことを示唆する役目もこのシーンが担っており、わかりやすく税務署と国税局の違いを表現している。英樹をラブホテル経営で財を築いた人物にしたのも、ガサ入れするシーンで、アレの真っ最中の部屋の扉を片っ端から蹴破る場面を作りたかったからかもしれない。

 他のシーンも、わかりやすくすることにかけて細かく配慮されている。別に税金用語が分からない人でも、下品なシーンや、笑いの中で語られる金の隠し場所や、秘密書類の話などで、すんなり物語に入れるようになっており、エンターテインメント系の作品として、苦痛なく鑑賞が可能だ。

 また、悪役が立っているのもこの映画の楽しいところだ。英樹の金の流れを突き止めるのが、本作の大枠のテーマとなるが、最初は完全に悪役の雰囲気で登場するのに、終盤あたりから、息子とのコミュニケーションに迷う父親になってしまうあたりが、どこか憎めなくて魅力がある。前半に登場する、伊東四朗演じるパチンコ店社長も、かなりどうしょうもない人で、胡散臭い行動が笑いを提供する。他にも、税務署にヤクザの組長・蜷川喜八郎(芦田伸介)がカチコミした際の演説なども、皮肉が効いていて、かなりの見どころとなっているだろう。

 あと、なんといってもこの映画と言えば、亮子がなにか行動する際必ず流れるあのBGMだ。おそらく作品を知らなくても、同作のBGMならば、バラエティー番組などで聴いたことがあるのではないだろうか? おそらく「元はこの映画のBGMだったのか」と驚くはず。そう言った意味でもこの作品はオススメかもしれない。

 ちなみに、伊丹監督の女主人公+職業という構成は『スーパーの女』や『ミンボーの女』と、後にシリーズ化していくが、ちょうど伊丹監督が亡くなった1997年に、男女雇用機会均等法が改正され、性別による職種差別が撤廃の方向に進んでいった。もう少し伊丹監督が長生きしていれば、もっと面白い「○○の女」が誕生したかもしれない。例えば悪質な生活保護者に対抗する福祉事務員が活躍する作品とか、女性車掌か運転手を主人公にして、鉄道業界に踏み込んだ作品とかもあったかもしれないと思うと、今更ながら残念な気持ちになる。

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

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