search
とじる
トップ > その他 > 【不朽の名作】キャストはかなり豪華しかし史実を元にしているのでキャラの薄さが…「226」

【不朽の名作】キャストはかなり豪華しかし史実を元にしているのでキャラの薄さが…「226」

pic pic

パッケージ画像です。

 日本で2月26日と言えば1936年に発生した皇道派の影響を受けた陸軍青年将校らが下士官兵を率いて起こしたクーデター未遂事件「二・二六事件」が発生した日として知られている。そんな教科書にも載っている事件を扱った作品が1989年公開の『226』だ。

 同事件を題材としている作品は他にもあるが、同作はそれらの作品以上に26日〜29日までの4日間を追ったドキュメンタリー色が強い。キャストは当時としてもかなり豪華だが、時系列に沿っているため役柄によってはほんの一瞬出るだけで出番が終了してしまうなどということも。

 話の流れとしては、決起の首謀者である青年将校、特に、野中四郎大尉(萩原健一)、安藤輝三大尉(三浦友和)、河野寿大尉(本木雅弘)、香田清貞大尉(勝野洋)、栗原安秀中尉(佐野史郎)、磯部浅一元一等主計(竹中直人)など、主導した立場にいたとされるメンバーを中心に事件がほぼ時系列に進んでいくという形となっている。いきなり決起シーンからスタートで、決起将校が「昭和維新・尊王討奸」の名の下、「君側の奸(くんそくのかん)」と定めた各大臣や元老を襲撃する。おそらく一番盛り上がる場面であるはずだが、前半の30分程度で終了してしまう。

 襲撃時、隠れて難を逃れた岡田啓介首相(有川正治)、瀕死の重傷を負った鈴木貫太郎侍従長(芦田伸介)、暗殺された高橋是清大蔵大臣(小田部通麿)、斎藤実内大臣(高桐真)、渡辺錠太郎教育総監(早川雄三)、岡田首相の身代わりとなり殺害された松尾伝蔵内閣総理大臣秘書官(田中浩)といった登場人物には字幕で人名と役職の説明が入るのみ、もちろんそれ以降は全く出てこないので、多少でも事件の内容をあらかじめ知っているのが前提になっている。場面転換が激しく、結構話を追うのは大変だ。

 印象としてかなり事件の情報を集めて極めて“忠実に”時系列を追っているというのがわかる。その徹底ぶりは凄まじく、特定の思想や、戦後の価値観を入れないように注意しているためか、登場人物の心理描写や、資料が反映できない部分の会話は必要最小限。群像劇ではあるのだが、作品の中心人物である青年将校すらも各キャラの人格が出にくいものとなっている。襲撃後、霞ヶ関・三宅坂一帯を占拠した後は、政府や軍の発表が更新される度に全員揃ってそわそわ、イライラしているだけの存在となってしまっている。

 そんな中、唯一と言っていい青年将校たちの心理的な部分が見えるのが、有名な「兵に告ぐ。勅令が発せられたのである。既に、天皇陛下の御命令が発せられたのである」で始まる下士官・兵士に投降を促すラジオ放送を受け、主張が受け入れられず、賊軍の扱いをされてしまい動揺する場面だ。もちろん内部での様子などの証言資料は、事件の首謀者のほぼ全員が一審のみ弁護士なしの軍事裁判で銃殺刑を受けたため、殆ど残っていない。そこで、この作品では人間としてのどの時代でも普遍的な心配事であるであろう、家族を想うという回想シーンを挟んでくる。これが青年将校全員分の回想を一気に挟み込むため、数少ない心理描写にもかかわらず、すさまじくテンポを悪くしてしまっているのだ。

 クーデターを起こした理由も、首謀者の殆どが「皇道派」に属しているということがさらっと説明されるだけで、その細かい思想については、一切の説明がない。決起に至るまでの描写でもあればわかりやすかったのだろうが、残念ながらこの作品では全くない。もちろん、その部分をやれば、脚本的にはよくありがちだが、とあるキャラに青年将校らのやり方を批判させて、戦後的な価値観で過去を裁くという、一番白ける展開が入る可能性もあるので、引っかかる部分をなくしているとも言えるが。

 終盤の投降後は、軍事裁判の詳細描かず、ただ青年将校の残した辞世の言葉などを紹介していくという形を取っている。ちょっと忠臣蔵のラストっぽい感じだが、これもテンポがいいとはあまり言えない。

 しかし、前半の襲撃シーン前後あたりまでは非常に同作は観ごたえがある作品ではあるかと。まず、序盤で雪が降る夜に行軍するという映像のなんとも言えない重苦しさと、千住明作曲の音楽が合っている。この作品、悪い意味でも良い意味でも無駄に説明台詞を挟まず淡々と話が進むので、その際、場面ごとでの重々しい空気を表現するのに、BGMが一役買っている。

 また、襲撃シーンの武装面でも若干注目点が。首相官邸襲撃の際、クーデター軍が十一年式軽機関銃という軽機関銃を使っている場面があるのだ。この機関銃は給弾にマガジンや弾帯、保弾板を使わず、ボルトアクション式小銃用の挿弾子(そうだんし)を使う世界的にみてもユニークな「ホッパー型弾倉」を使う機関銃として有名だ。事件の数年後に正式化されたマガジン式の九九式軽機関銃は、他の作品でもよく見るが、十一年式軽機関銃が登場する作品は珍しいのではないだろうか? 同作ではこれを設置するのではなく、兵士がランボーのように腰溜めで撃っていた。ある意味この作品で一番派手なシーンかもしれない。

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

関連記事


その他→

 

特集

関連ニュース

ピックアップ

新着ニュース→

もっと見る→

その他→

もっと見る→

注目タグ