「タイミングの取り方がよくなりました。木製バットでは高校時代の金属バットのような飛距離は出ません。『もっと遠くへ』と意識するあまり、バットを後ろに引きすぎていて、タイミングがずれていました。多分に力も入っていましたしね。病気療養し、逆に余計な力が抜けたのがよかったのかも」(プロ野球解説者)
その清宮は二軍戦では56打席に立っただけである。この早すぎる昇格には“大人の都合”も隠されていた。
「一軍昇格が発表されたのは4月30日。栗山英樹監督(57)が試合前に明かしました」(担当記者)
この時点で“大人の都合”は始まっていた。同日は14時スタートのデーゲーム。清宮のいる二軍戦も13時から始まったが、その約1時間半前、編成トップの吉村浩ゼネラルマネージャーが荒木大輔二軍監督(54)のもとを訪ね、2人きりで会談している。それも、対戦チームの平塚球場で、だ。
「満場一致での昇格という形を取りたかったんですが、荒木二軍監督や何人かのコーチは反対でした。時期尚早だと」(球界関係者)
清宮はまだサインを覚えきっていないそうだ。体力面でも不安が残る。
「28日に指名打者の近藤健介が故障し、栗山監督は『無理をさせる時期ではない』と、試合から外しました。清宮はその代役として白羽の矢を立てられたのですが、理由はそれだけではありません」(同)
今年10月、U-23の野球ワールドカップがあり、日本野球機構(NPB)によればプロアマ混成チームになるという。理由は、同大会中にクライマックスシリーズ(CS)、日本シリーズと時期が重なるためだ。
「さほど重要視される大会ではありませんが、23歳以下の大会なので、東京五輪を見据えて、野球の国際大会を盛り上げていく必要がある」(ベテラン記者)
今年22歳になる岡本和真(巨人)、高卒2年目で今季、頭角を現した京山将弥(DeNA)らの派遣を迫られたら、両チームは困惑してしまう。ましてCS進出の可能性があるならばなおさら。そこで浮上してきたのが、清宮なのだ。
「二軍選手ばかりを派遣したら、アマチュア球界が怒りますよ。東京五輪の野球競技を追加種目に当選させるためにプロとアマは共闘し、以後、友好関係にあった。人気の清宮を派遣すれば、スルー状態に近かったU-23にも注目が集まります」(前出・関係者)
かといって「二軍の清宮」では体裁が悪い。一軍を経験させた上で、U-23大会に送り出そうというのだ。
代表チームの指揮を執るのは、侍ジャパンの稲葉篤紀監督(45)だ。日本ハムのスポーツ・コミュニティ・オフィサーでもあり、清宮の将来に繋がる起用法も考えているだろう。また、国際試合となれば、メジャーのスカウトが必ず視察に訪れる。将来の米球界挑戦を目指す清宮自身にしても、メリットはあるわけだ。
「国際大会と言っても、日本がかなり資金援助しています。清宮の参加で出資を考えてくれる企業が現れたら、嬉しいでしょう」(同)
ゆえに一軍昇格の時期も予想通りだった。「ゴールデンウイーク時、それも本拠地での連戦が始まる時期に合わせて」と各メディアの予想通り、5月2日の本拠地主催ゲームとなった。もちろん営業的な理由もあったが、こんな声も聞かれた。
「ファイターズは、札幌から北広島市への本拠地移転がすでに発表されています。札幌市民からは落胆の声ばかりでしたが、最近では『北広島市と相見積もりをやった。違法ではないが、割り切れない気持ち』と批判的なものに変わりつつあります。そういう球団批判も、清宮昇格で変わって来ると思います」(地元関係者)
二軍戦ではこんなシーンも見られた。24日の楽天戦前、清宮は愛用の“A社バット”を折ってしまったのだ。このA社と近くアドバイザリー契約を交わすとのことだが、高卒プロ1年目からの契約は異例中の異例。「二軍選手のままではカッコ悪いだろう」という、そこに球団の親心もあったのかもしれない。
「問題は清宮を二軍に再度降格させる時期とその大義名分。リーグ首位打者の近藤は軽傷なので、すぐに復帰します。近藤は怪我の多い選手なので清宮と同じDHで使いたい。『一塁清宮、左翼中田翔、DH近藤』の強力打線を組むのか、それとも出場機会を確保させるために二軍で勉強させるのか…、栗山監督も頭が痛いところ。今はレアードの故障も重なったので清宮を使うしかありませんが」(同)
チームのCS進出が前提だが、「清宮の国際試合派遣でも影響の出ないように」と考えれば、二軍降格となる。だが、営業的には一軍に置いておきたい。ファンもそれを望んでいる。
いずれにせよ、今回の昇格には実力以外の理由も絡んでいたわけだ。本人が結果を残してくれたのがせめてもの救いかも。