「将来、本当に年金はもらえるの?」「年金なんて払い損だよね」という声が多い。とはいうものの「じゃあ将来、年金を当てにしないで済むの?」と聞かれると、頭を抱えてしまうのが実情だろう。
日本は少子高齢化社会に向かっている。従って「年金は破綻する」という意識は根強く「払い損」と考えるのも無理はない。
しかし、本当に「年金は払い損?」なのか−−。確かに満額支給される65歳以前に死亡した場合は明らかに払い損のように思えるが、『障害年金』や『遺族年金』である程度補填されるので、全くの払い損にはならない。しかも平均寿命まで生きれば、今の水準では支払った額以上の年金がもらえる。
国民年金の場合、例えば20歳から60歳までの40年間払い続けたとすると、支払総額は約700万円。対してもらえる年金は現時点で年間78万円。女性の平均寿命は86歳余なので65歳から21年間とすれば年金総額は1638万円。2倍以上だ。男性の平均寿命は80歳余。受給期間が15年間として1170万円。約1.7倍である。
サラリーマンなどで厚生年金に加入している場合はもっとお得。個人が支払う保険料と同額を会社が負担してくれるからだ。
この厚生年金の場合は、世代によって差はあるが、仮に平均標準報酬月額(平均月給)が35万円だとすると、40年間、厚生年金に加入していれば、個人負担分の支払い総額は1400万円ほど(会社と折半)。一方、夫が80歳まで生きたとして受け取れる年金額は約3030万円。こちらも給付額は2倍以上で、妻が65歳になるまで夫の年金に加算される『加給年金』や夫の死後の遺族年金もある。
つまり、若い世代でも平均寿命まで生きれば年金はお得! 詳しくは『ねんきんネット』などで調べてみよう。
【心細くなる“老後の支え”】
年金制度には『年金積立金』がある。
かつて'70年代、約8.5人で1人の高齢者を支えていた時代、豊かだった年金財政で余った資金を「積立金」として運用している。その額はおよそ1278兆円(2014年第1四半期)。しかも、年金には税金も投入されている。国民年金(基礎年金)の半分は税金で賄われていて、「年金なんか…」という人も年金の財源を負担しているのだから、せっかくの年金を活用した方が得だ。
つまり当面、年金制度の破綻は考えられないが、半面、'13年10月からの「年金減額」などで“老後の支え”が少し心細くなってきたのも事実。この年金減額は、「もらい過ぎ年金の減額」と呼ばれるものだ。
実は日本の公的年金には『完全自動物価スライド制』という耳慣れない制度が採用されていて、物価や賃金が上がれば同じだけ年金額も上がり、下がれば年金額も下がる仕組み。日本は長引く不況に伴うデフレの影響で物価が下がっていたのだが、年金額はそのまま据え置かれていた。政府が“高齢者の反発”を恐れたからである。
しかし、'13年10月から'15年4月にかけ3段階に分けて平均2.5%分“もらい過ぎ”分を引き下げる。3回合計で国民年金満額が78万円として毎月1625円、前述の厚生年金の例だと4208円、それぞれ引き下げられる。
年金は2カ月に1度振り込まれるから、厚生年金の場合は8400円以上も振り込み金額が減る。年金生活者には切実な問題だ。
それだけではない。もっと大きな問題は、今後導入される『マクロ経済スライド制』だ。
これは、将来の人口減少や高齢者の平均寿命の伸びなどを考え、今後は物価変動と同じ割合では年金額を変えないという制度のこと。各年度の年金額決定時に、物価(賃金)の伸び率から当面0.9%分を差し引くというもの。つまり、実質的に減っていく可能性が高い。
要するに将来的に増え続けることが予想される年金額の給付を抑えようとする意図である。
これは単なる「0.9%」という数字の問題では済まない。「もらい過ぎ年金の解消→マクロ経済スライドの発動」という流れに沿って、「年金給付削減」の道筋を明確にする意図が見える。
将来の受給世代に大きな“痛み”を強いることを政府が宣言したのだ。