涙の復活劇の裏には、艱難辛苦の日々があった。
「右トモを骨折して、ギプスをして右脚をかばっているうちに、今度は左前をやって(傷めて)しまったり…ホントに満身創いだった」
川村調教師は休養が1年5カ月もの長きにわたったトーホウレーサーについてこう説明した。
復帰戦を迎えるまでには紆余曲折があった。「プールに入れたり、これまで我慢しながらやってきた。きょうはスタッフの苦労などを考えると涙が…」。声を震わせながら話すトレーナーは、込み上げてくるものを抑え切れず目頭を押さえた。
普通なら引退に追い込まれても不思議はないほどの故障。それでも、戦列復帰を目指してきたのは「素質があると感じていたから」だった。3歳時にはGII・NZTを快勝し、NHKマイルCで0秒4差5着とGIタイトルに、あと一歩まで迫った。このまま引退させるには惜しい。陣営はいちるの望みを懸け、全身全霊を尽くして愛馬を立て直してきた。
復帰戦は、そのポテンシャルの一端を見せるレースぶりだった。スタート良く飛び出すと、スピードの違いでハナを奪った。「指示通り前々で」と柴山騎手。しかし、道中は「後ろから突かれる厳しい展開」と決して楽ではなかった。にもかかわらず、直線では末脚を伸ばしてきたショウワモダンの猛追を根性で振り切った。「最後は久々だということが頭をよぎったけど、よく粘った」と柴山。「正直、一発目からやれるとは思っていなかった」と言う指揮官の不安を裏切る快走で、陣営の苦労に報いた。
開幕週の小回り平坦コース、さらには雨を含んで差し、追い込みが利きにくい馬場状態と、数々の条件が味方したことも確か。だが、それでも長期休養明けでいきなり結果を出すあたりは、並の馬にはできない芸当だ。今後は「馬と相談しながら」と川村師は明言を避けたが、今夏の主役になる可能性を秘めていることはいうまでもない。