「巨人側から仕掛けたトレードでした。中継ぎタイプの投手がほしいと持ち掛け、交渉を進めていくなかで具体的な選手名が挙げられていきました」(球界関係者)
トレードの期限は7月末まで。このトレードは先日、巨人GMに就任した堤辰佳氏(49)の“挨拶補強”とも言われている。そして、「存在感を見せるため、さらに大型トレードがあるのではないか」という見方が支配的だ。しかし、その一方でこんな声も聞こえてきている。
「前任の原沢敦氏の時代もそうだったが、ゼネラルマネージャーと言っても、経営面にはタッチしていません。つまり、巨人はGMが単独で補強、人事を決断することはできない組織形態になっています」(ベテラン記者)
そのため、巨人GMは決められた人件費の範囲でしか選手補強ができない。トレードも同じで、獲得を目指す選手の現年俸を確認し、人件費の残高が足らなければ、それなりの年俸を払っている自軍選手を放出しなければならないのだ。トレードとは、放出する選手と獲得する選手の年俸バランスが重要で、限られた人件費の範囲でしかできないのだ。
「生え抜きで13年目の矢野を放出したのは、彼自身に試合に出るチャンスを与えるためでした。飼い殺しにするのは本人のためにもよくないと判断したからで、そういう配慮ができるのが堤氏だ、との見方もできます。堤氏は広報部に在籍していたときも選手から人望の厚い人でした」(同)
また、交換要員として得た中継ぎ投手の矢貫についてだが、大学野球関係者から「目のつけどころがいい」という声が聞かれる。矢貫は強豪高校の仙台育英から常磐大学を経て社会人に進み、プロ入りした。しかし、常磐大学の所属する関甲新学生連盟によれば、「高校3年間は一度もベンチ入りできなかった補欠選手。本人が大学で努力してプロの目に留まった」という。
「努力家でキャプテンシーも持った好人物ですよ。将来は指導者としてだけではなく、フロント入りしてもきちんと仕事もできるはず」(前出関係者)
一方で、日ハムは以前から矢野の素質を買っていたという。しかし、その矢野を獲得した直後、「オフにきちんと話し合わなければ…」と、一抹の不安も見せていた。矢野はすでに国内FA権を獲得しており、日ハムに骨を埋める気があるのか否か、分からないのである。しかも、人的補強の発生しないCランク選手である。巨人帰還の意思が前提にあるトレードだったのだとすれば、堤GMはかなりのクセモノだ。
「トレードはその対象選手の転居、家族の問題もあり、どの球団もそれに配慮し、消極的な傾向も見られます。シーズン途中のトレードとなれば、家族の残しての単身赴任です。巨人は有名選手のトレードよりも再生可能な選手を見出す方向に変えようとしている」(同関係者)
人件費の予算、選手の家族問題、出場機会、人間関係、そして最終決定権はない。巨人のGMは苦労が多そうだが、諸々の条件をクリアして挨拶代わりのトレードを成立させた堤氏。矢貫や北の活躍次第だが、やり手GMの片鱗は見せている。