見ようによっては、非常にデリケートな印象に受け取られるが、例えば冷たいコップを手にしたり、冷たい外気に顔や唇が触れたときなどでも、強烈なかゆみや発疹、皮膚の腫れが起きる。こうした症状が医学的に「寒冷じんましん」と呼ばれているのだ。
「夏でもビールなど冷たい飲み物をよく飲むと発症しますが、この11月を過ぎると、病院を受診する患者がグンと増えます。当院にも性別関係なく多くの患者さんが見えます。“変わった物を食べてないのに”と、けげんな顔で受診する方もいますが、『かゆさに耐え切れない』と訴えますね」(木下皮膚科クリニック・木下裕子院長)
さらに「寒冷じんましん」は、通常のじんましんと異なり、特に中高年には大きなリスクが潜んでいることがあるという。
例えば梅毒やヘルペス、リウマチやウイルス性肝炎、がんや悪性リンパ腫などが隠されているかもしれないとされ、それこそ命に関わる病気が潜み、決して甘く見ることはできない。
東京都立多摩医療センターの皮膚科担当医もこう言う。
「若年者の寒冷じんましんは、原因がはっきりしないところもありますが、半年か数年で完治することがほとんどで問題はありません。それより怖いのは、中高年の場合です。普通のじんましんと違って、患者の5%程度にリスクの高い病気が見つかることがあり、血液系の病気との合併頻度が高くなるのが特徴。原因となる病気を治療すれば寒冷じんましんも良くなりますが、それには血液検査をきちっとする必要があり、検査で異常値があれば、さらに詳細の検査をして原因疾患を見つけることが大事になってきます」
いずれにしても、体が急に冷たくなる度に皮膚に発疹が出たり、暖かい場所から寒いところに移動すると、かゆみが出てしまう人は、まず「寒冷じんましん」の可能性があると思った方がよさそうだ。
この現象は、激しい温度変化が血管の周辺にある肥満細胞を刺激することでヒスタミン(かゆみの素因子)が放出され、そのヒスタミンが血管内の血しょう(血液成分中の液体)を外に出すため、皮膚に赤みを帯びた膨らみができる。
寒さによる刺激は体温低下を引き起こすので、急激な温度差が原因となりうる。従って、例えば冷たい外気にさらされた後に入浴し、体温を上昇させた後に起こる急激な体温低下もこれに当たる。
「寒冷じんましん」を体験した調布市の自営業Bさん(54)はこんな体験話をしてくれた。
「朝起きて素足でフローリングに触れたら足の周りにじんましんができたり、朝の冷え込みが強い日、散歩に出たら、手や太もも、背中、腹部に発疹ができました。近所の医者に行ったところ「寒冷じんましん」と言われ、以来、冬場の散歩をするときは、医者のアドバイスを受けてマスクをしたり手袋をして続けるようにしています」
前出の木下院長が再び解説する。
「医師が判断する時の一つに、ラップに包んだ氷を前腕に当てて、5分以内に氷の形で発疹や強いかゆみが出るかどうか調べる方法があります。しかし、絶対に自宅ではやらないこと。アナフィラキシーショックを起こし、まれに命を落とす可能性もあるからです」