阪神の谷本修球団本部長(54)が関西系スポーツメディアの囲み取材に応じ、近く、鳥谷敬内野手(38)との直接会談の場を設ける旨を打ち上げた。
去る8月25日、4点ビハインドの9回、代打で登場した鳥谷が意地の内野安打を放った。全力疾走がヒットを呼んだと言っていいだろう。得点には結びつかなかったが、試合後、鳥谷は意味シンな発言をしている。
「最後の打席になるかもしれないからね」
今季、神宮球場での阪神戦は同日が最後。鳥谷は5年契約の最終年を迎えており、額面通りに受け止めるとすれば、「今の成績では現役を続けられない。最後の神宮球場での試合になるかもしれないから…」ということになる。
この発言が同日中に球団幹部に伝わり、谷本本部長が真意を確かめるため、鳥谷と直接話をすると言ったのだ。
「会談の場を設けるタイミングが非常に難しいですよね。シーズン中であり、阪神はクライマックスシリーズ進出の可能性がまだゼロになったわけではありません。試合前、本部長とチームに強い影響力を持つベテランが話し合ったとなれば、ヘンな緊張感も広まりますし」(在阪記者)
鳥谷は本拠地・甲子園球場への移動前(26日早朝)、「来年は二軍だったら、最後になるかもしれないので」と説明し、引退説を否定した。しかし、アノ人が引退を発表した時と状況が似ているのだ。
アノ人とは、前任監督でもある金本知憲氏のことだ。
「金本氏が現役引退を発表したのは、2012年9月でした。試合に出ることにこだわりを持っていたので、満身創痍。特に右肩を痛めた後は、守備でチームの足を引っ張ってしまい、居たたまれない気持ちになり、引退を決意したと話していました」(ベテラン記者)
世代交代の波に飲み込まれてしまったベテラン。鳥谷はベンチスタートとなることが多く、今季途中、打撃、守備ともに上向きになったのに、球団は新外国人選手を緊急獲得した。鳥谷の定位置・ショートも守れる外国人選手が獲得された時点で“疎外感”を持ったとしても、決しておかしくはない。
晩年の金本氏も外野から内野の中継プレーで、内野手がすぐ近くまで走ってきてもらわなければ、送球ができない醜態を晒していた。
金本氏は連続試合出場の記録が真っ先に思い出される。しかし、阪神OBのプロ野球解説者によれば、金本氏がもっとも誇りにしていた記録は、連続試合出場ではなく、「無併殺の連続記録だった」という。
「一塁に走者を置いた場面で、打ち損じて内野ゴロになった場合、プロ野球選手は一塁まで全力疾走しません。だから、相手チームは簡単にダブルプレーを成立させてしまうんですが、金本氏は一塁まで全力疾走し、併殺プレーを成立させませんでした。『1002打席連続無併殺』という、記録が残っているんです」(プロ野球解説者)
全力疾走に、美学を持っていた選手でもあったようだ。「最後」発言をした鳥谷も一塁まで全力疾走をしたから、内野安打を稼ぐことができた。途中、打球の方向を確かめる仕種も見られた。打った瞬間、「ダメだ」と諦め、全力疾走しなかった自分と、「間に合うかもしれないから、走れ」と、自らを鼓舞する気持ちが交錯していたのではないだろうか。
鳥谷は金本政権でレギュラーを外され、輝きを失った。監督・金本と選手・鳥谷は反目していたという報道もあった。しかし、全力疾走に真の美学を持つスピリットを踏襲したのは、間違いなく、鳥谷である。
(スポーツライター・飯山満)