実際、移住先で楽しく暮らしているのか。問題に直面して舞い戻る人はいないのか。費用や手順はどうするのだろう。そんな現場を取材した。
「ここへ移住して4年。店を出して3年たちました」
東京から車で中央高速を2時間余り。諏訪ICを降り、長野県茅野市街地から約20分、八ヶ岳の麓で『ポップズカフェ』を営む藤田敏明さん(54)が語ってくれた。
「田舎は確かに不便です。バスだって朝と夕方だけというところもあります。コンビニも歩いて行けるところにはありません。でも、そういう都会の便利さを捨てる気になれば、田舎にデメリットはありません。ストレスフリーの生活を堪能できますよ」
藤田さんは京都の車関連企業に20年以上勤めていたサラリーマンだった。癒やしを求め、年に5、6回、蓼科のペンションに宿泊することを繰り返していた。
2〜3日滞在し、リフレッシュしては京都に戻る。
「当時は、こういうところで暮らせたらいいねと、妻と憧れているだけでした。住むことになるとはつゆほども思いませんでした」
そんな藤田さんの人生に一大決心のきっかけをもたらしたのが、友人のペンションオーナーの一言だ。
「地元の不動産業者を紹介されたのです。冷やかし半分で八ヶ岳周辺を案内してもらいました」
そこで出会ったのが、その後カフェを建てることになった現在の土地だった。
「窓のすぐ外では鳥が鳴き、花が咲く木立もあります。京都と違って涼しくて、近所の人たちもとても穏やかに暮らしています。野菜や果物だって、地元産だから新鮮でおいしい。まさに求めていた土地でした」
今では、夫婦でスローライフを存分に楽しんでいる。
藤田さんにいくつかアドバイスをもらった。
「田舎で暮らすコツは、自分でこまめに動くことです。車も必需品ですね」
公共交通機関はないに等しいから、スーパーへの買い出しも最寄りの駅へ出るにも、車がなければ身動きがとれない。
「他にも祭の準備や、冬ならば隣近所で一斉に雪かきをするなど、都会の人には煩わしいかもしれない付き合いもあります。でも、それが住む人々の心をまとめるきっかけにもなります」
藤田さんにとっては、ストレスもプレッシャーも無縁の世界。ぜいたくはできないが、今の生活を満喫しているそうだ。