最速157キロ、球威では今年の1位指名投手・沢村拓一、大石達也(=西武)と比べても、引けを取らないとされる菅野が原辰徳監督(52)の甥っ子なのは、説明するまでもないだろう。清武代表は「結果的に」と、あくまでも『実力』を評価しての1位表明だと強調していたが、今年度のドラフト会議が終わってから、まだ2カ月も経っていない(会見時点)。この時期に、来季の指名を明かしたのは、他球団への牽制だろう。
「メジャースカウトが菅野クンを視察に来ているのは本当ですよ。本当にいいピッチャーだと思います。変化球も多彩で、精神面でも強い選手です。さすがは、原監督の甥、(原)貢さんのお孫さん…」(在阪球団スカウト)
清武代表もメジャースカウトの動向は気に掛けていた。
しかし、この会見で牽制したかったライバルは「国内チーム」だった。
「一般論として、親族の指名は見送る慣例も球界にはあるんです。例外ももちろんありますが」(前出・同)
「原監督の甥」よりも、「原貢氏(東海大学系列校総監督)の孫」であることが“問題”だという。原貢氏と『深い関係』にある者が、広島東洋カープにもいたのだ。貢氏が三池工業高校の野球部監督だった時代の教え子、苑田聡彦スカウト部長である。
「教え子が頭を下げに来たら、『ウン』と言わざるを得ません。高校野球の監督というのは、教え子に対し、特別な感情を抱くものです」(球界関係者)
ドラフト1位指名は入札抽選制であり、巨人の思惑通りになるとは限らない。広島に菅野指名を辞退させるためか…。
野村謙二郎監督を迎えてからの広島は変わった。補強にも積極的になった。実現しなかったが、今オフは内川聖一(28)の獲得交渉に乗り出し、ドジャースとの契約が満了した黒田博樹(35)の“奪回”も本気で狙っていた。ドラフト戦略に関してもそうである。
「従来の広島なら、1位指名選手の競合を嫌い、単独指名可能な選手(社会人・大学)か、将来性を重視し、高校生を一本釣りする傾向も強く見られました。競合覚悟で大石(達也=西武)入札に参加したのは驚きました」(在京球団職員)
こうした野村カープの動きに警戒を強め、巨人は『前年12月』に菅野指名を表明したというわけだ。
会見が行われた日の様子だが、報道陣はスカウト会議が行われることは知っていた。球団事務所に集まっていたのは、選手の契約更改を取材するためだった。一般論として、この時期に行われるスカウト会議は、重点追跡する選手を確認する程度である。大多数のメディアはそうタカを括っていたら、「このあと、会見を−−」と知らされたのだという。
「オジサン(原監督)との関係を考えれば、菅野の意中球団は巨人だと思います。でも、プロ志望が強いとも聞いていますので、指名された球団に入ると思いますよ」(前出・在阪球団スカウト)
先駆けて1位指名選手を表明するリスクは「ない」とは言い切れない。09年秋のドラフト会議では長野久義外野手の1位指名を表明し、その代償で、菊池雄星の入札に参加できなかった。2011年のドラフト会議まで、あと10カ月間強。新星のように、他の有望選手が出現するかもしれない。
「今回の巨人サンの指名表明は賛成しかねます。私見ですが、他球団が本当に菅野クンを欲しいと思って強行指名すれば、『叔父と甥の関係を壊した』と解釈するファンも出てくるでしょう。また、他選手を指名したいと思っている球団はどうなるのか…。『巨人に加勢するのか!?』と、ファンに勘繰られる恐れだってあるわけです。当の菅野クンだって、4年生最後のシーズンで、何かと窮屈な思いをさせられるかもしれません。巨人入りのイメージが先行するのは良いことではありませんよ」(前出・同)
いずれにせよ、早すぎる1位指名表明は得策ではないようだ。