小説『ダ・フォース』は、ニューヨーク市警のエリート特捜部“ダ・フォース”に所属する敏腕刑事が、とある麻薬組織を追う内に犯罪組織の闇の側面へと転落する姿を描くハードボイルド小説。高濱氏は本書のように警察の側にいた人間が、ある日突然、警察から裏社会の側へと転落してしまうケースが日本でもあったといい、「情報を取るために我々(警察と暴力団)も緊密な関係を保たなけれならない。お互いが利用しあう関係になっていた。暴力団と警察の汚職や癒着の構図は確かにあった」と紹介。
「その中には、自ら塀の中に転がり込んでしまう警察官もいた」と言い、「我々の仕事、特に現場に行っている人間たちは、塀の上を歩いているようなものなんです」と苦笑い。「捜査を進め、情報を取っていく中で、一歩間違うと自分の方が塀の中に落ちてしまう。犯罪を摘発するというのは簡単ではないということなんでしょうな」としみじみ。情報を取るために連携していく中で、気がつくと、汚職や犯罪に加担していたというケースは珍しいことではなかったという。
「悪に手を染めろとはいわないが、暴力団側との緊密な関係が保てず、警察が情報を取れなくなって困るケースもあった」といい、その典型的な例として、1978年7月11日に京都市東山区のクラブ「ベラミ」で起こった「山口組三代目襲撃事件」を挙げた。この事件の事前には、警察内で暴力団との関係をクリーンにするため、暴力団と緊密な関係を持ち、情報を取る上で“有能”とされていたエリートたちを地方に追いやってしまっていたという状況があったといい、事件の直後、「犯人が3日ほど全く特定できず困った」と回顧。
「本来なら、即日犯人が割り出せるはずなのに、緊密に連絡を取っていた人間がいなくなって情報が取れず、犯人がなかなかつかまらなかったんです。結果、山口組と警察の犯人探し競争のような状態が起きてしまった」といい、「警察内部をクリーンにし過ぎるからそうなる。汚職が決して良いとは言わないけど、ある程度の緊密な関係がないと、場合によっては世の中の治安も悪化する可能性があるということなんです」と持論を展開。
警察の側が犯罪組織の仕掛けた、“色”に堕ちることもあったといい、「優秀な警察官が情報を取る相手が女性だったりする場合に、情がわいて男女関係に発展する場合もあるし、はめられるケースだってあった」とコメント。「女を抱かせることによって暴力団組織の側も我々の情報を取ろうというね。(そういう時の相手の女性は)やっぱり、べっぴん(美人)が多かったんですよ」とにっこり。「転落する人の特徴は検挙実績が高い人。実績もない人間はそもそも検挙の機会に恵まれない。危ない橋を渡らなければ本来の仕事ができないんです。優秀な人間ほど罠に落ちやすかった」と話していた。
(取材・文:名鹿祥史)