マイナースポーツのためあまり知られていないが、トライアスロンをやる人間ならば、だれしも尊敬してやまないのが長嶋氏。野球界のミスターは、トライアスロン界でもミスターなのだ。
1985年の監督浪人時代、競技歴の浅いマイナースポーツのために一肌脱ごうじゃないかと、日本トライアスロン連盟の初代会長に就任。競技人口を増やすための普及活動などに尽力した。
トライアスリートに対しても野球と同じように陽気な“チョーさん節”で接し、欧米列強に立ち向かう日本人選手を鼓舞。天草トライアスロン大会(熊本)でスターターを務めるなど先頭に立って汗を流し、PRのための露出をいとわなかった。球界に復帰するまで約10年にわたって長く会長職を務めた。
こうした長嶋氏の努力が競技の魅力を伝えることになり、競技人口拡大に結びつけたとみる関係者は少なくない。連盟発足当初は数千人程度にすぎなかった競技人口は約20万人に増加。一般選手への普及活動だけでなく、五輪で日本人初の5位入賞を果たした井出選手を指導する飯島健二郎監督などトップ選手の強化にも積極的だった。長嶋氏にとって井出はいわば“孫弟子”のようなものだから、きっとテレビ観戦では手をたたいて喜んだに違いない。
鉄人レースと呼ばれるトライアスロンは、五輪では「オリンピックディスタンス」のスイム1.5km、バイク40km、ラン10kmで競われる。身長158cmと小柄ながら、高校時代に競泳自由形でインターハイ出場経験のある井出は、得意のスイムで4位の好スタート。バイクでも先頭集団に食らいつき、ランでも勝負を仕掛ける余力を残した。2時間0分23秒77の記録はメダルまでわずか30秒弱の僅差だった。
競技歴わずか2年。それでも「メダルが欲しかった」と言ってのけた。2012年ロンドン五輪での活躍が大いに期待される。
また、3大会連続出場の庭田は年齢を感じさせない積極的なレースで9位。「自分にも伸びしろはあると実感した」とロンドンを目指す意向を明かした。
女子マラソンがふがいない成績に終わっただけに、同じ持久力種目のトライアスロンが脚光を浴びるようになるかも。