A:その友人が言っているのは、愛知県がんセンター研究所のグループが、がん学会で発表した疫学研究の報告が根拠になっているのでしょう。この疫学調査は、同センターを受診した人の中から、口の中や喉などの頭頸部がんと食道がんの患者計961人と、がんでない2883人に、歯磨きや喫煙、飲酒などの習慣を聴きとったものでした。対象者の年齢は20〜79歳で、平均は61歳。
集積したデータを解析した結果、1日に2回以上歯を磨く人は1回の人に比べ、がんになる危険性が約29%低く、まったく磨かない人の危険性は2回以上磨く人の2.5倍でした。喫煙や飲酒をする人だけの解析でも同様の結果で、歯磨きの習慣がないことは、他の危険因子と関係なく独立したがんのリスクであることを強く示しているとのこと。
研究班によると、理由は「口の中に、アルコールからアセトアルデヒドを作る細菌がいるから」。アセトアルデヒドは、アルコールの最初の代謝産物。発がん物質で、食道がんや喉頭がんのリスク因子の一つなのです。
●飲酒しながらのタバコは絶対にダメ
ちなみに、お酒を飲むと、アルコールが肝臓で分解されてアセトアルデヒドがつくられます。この物質が血中を回り、喉頭や咽頭、食道などの粘膜を傷つけ、これらのがんを発症する要因になります。
アセトアルデヒドをつくる細菌も口腔内のアセトアルデヒドも、歯磨きすることによって洗い流されるということのようです。このことからも、歯をよく磨くことの重要さを認識してほしいものです。
しかし「歯を1日に何回も磨けば、お酒をいくら飲んでも食道がんになる心配はない」ということではありません。お酒をよく飲む人の中でも食道がんになりやすいのは、遺伝的に元々あまりお酒を飲めないタイプの人が、飲酒経験を積んで飲めるようになり、多量の飲酒が常習化した場合といわれています。
また、タバコはがんを発症するリスク因子であることからも、お酒を飲みながらタバコを吸うのは絶対にダメです。
それとは別に、歯磨きは最低でも朝、晩(就寝前)の2回行いたいものです。
渡辺秀司氏(とつかグリーン歯科医院院長、漢方歯科医学研究所所長)
神奈川歯科大学卒。同大学研修医を経て、横浜市でとつかグリーン歯科医院を開設。歯学博士。歯科領域に漢方を取り入れ、天然素材を配合したうがい薬や歯磨き剤を開発。独自な歯周病治療で名高い。