いきなりバシッと頭を叩かれて、何が起こったのかわからないまま、呆然としているお客様に向かって、罵声を飛ばす。下品な言葉使いにくわえ、すぐに手が出てしまう短気な性格だけど、一応、ここの一従業員なんです、私。
「触ってねえよ! 大体お前この席についてないだろ、どっか行けよ」
「はあ? しっかり触ってたじゃない! 大体そういう店じゃないんだよ、ここ。それとも何? お客様は神様とでも言いたいわけ?」
店内がザワザワし始めたと同時に、奥から店長が飛び出してきて、今度はお客様ではなく、私の頭をバシッと一発叩いた。そして引きずられるかのように、他のスタッフが私を奥へと連れて行く。相変わらず、怒鳴り散らすお客様にヘコヘコと頭を下げる店長を見て、何だか腑に落ちなかった。
「雪音ちゃん、やりすぎ! 大事になったら店の中だけじゃすまないんだからね!」
「も〜う、わかってます」
「言ってることは正しいかもしれないけど、問題を起こされたら困るのはお店側なんだよ」
「はいはい、わかりました!」
いつも通り、チーフからのお説教を聞き流して、私はさっきまで自分が付いていた席へと戻る。店内は、さきほどの騒動が嘘のように賑わいを取り戻していた。
「こっちまで聞こえてきたよ、雪音の怒鳴り声(笑)」
「だって、本当に腹が立ったんだもん! あの客もだけど、それよりも周りが、“何とかしろよ雪音!”みたいな目で見てくるんだよ? で、注意しにいったら私が怒られるんじゃん? 私はこの店の用心棒じゃないっつーの!」
席に戻っても怒りが収まらない私を見て、新田さんは、ケラケラと笑っている。
「しょうがないよ、みんな雪音に頼りきっちゃってるんだもん。それに、雪音も責任感が強い性格だから見てられないんでしょ? 本当はこの店で一番弱いのにね〜」
「誰が弱いって? 新田さんも怒鳴られたいの?(笑)」
「本当は弱い子ほど自分を守るために強がっちゃうもんだよ? 別にそれが悪いとは思わないけどね」
「…そうなのかな?」
「そんなもんだよ、女の子なんて」
何だか、すべてを見透かされたような気がして、無性に誰かに甘えたくなった。こんな性格だから、男の人に甘えるなんてこと、普段だったら、とてもできないけど…。
私の弱さを見抜いたこの人になら、甘えてもいいかな〜なんて思っちゃった。
取材・構成/LISA
アパレル企業での販売・営業、ホステス、パーティーレセプタントを経て、会話術のノウハウをいちから学ぶ。ファッションや恋愛心理に関する連載コラムをはじめ、エッセイや小説、メディア取材など幅広い分野で活動中。
http://ameblo.jp/lisa-ism9281/