コーチ決別騒動は、カナダ人コーチ・ブライアン・オーサー氏側が8月24日に、キム・ヨナ選手側から契約非更新の通知を受けたと発表したことが発端である。オーサー氏側は契約非更新の理由を説明されておらず、一方的なものとしている。
これに対し、キム・ヨナ選手のマネジメント会社オールザットスポーツ(パク・ミヒ代表)は以下のように説明する。
オーサー氏とは、他の選手からのオファー説があって5月からギクシャクした関係になり、キム・ヨナ選手は6月以降事実上一人で練習してきた。オーサー氏は8月23日に「これ以上キム・ヨナ選手のコーチはしない」と連絡し、キム・ヨナ選手側が受け入れたとする。
この説明に登場する、オーサー氏にオファーした他の選手が、浅田選手でないかと指摘されているのだ。すでに4月末の時点で、浅田選手側がオーサー氏にコーチ就任をオファーしたと報道されていた。この報道時点で浅田選手側は「日本と韓国の仲が悪くなるようなことはしない」と明確に否定した。
これに対し、オーサー氏側の態度は不明確である。カナダのテレビ番組のインタビューでは、浅田選手からのオファーの事実を否定した。一方で韓国のメディアには「コーチのオファーを受けたことはあるが、断った」と答えている。
オファーの有無は当事者(浅田選手側とオーサー氏側)しか分からない事実である。オファーが事実であろうと憶測であろうと、報道が明確に否定されなければ、キム・ヨナ選手側がオーサー氏に不信感を抱く理由にはなる。
キム・ヨナ選手もオーサー氏もマネジメント会社を介している。マネジメント会社はビジネスとして契約を処理するが、それが両者の溝を広げているのではないか。契約更新に際し、ライバル選手からもコーチ就任のオファーがあったという話は、好条件で契約締結を進める際の武器になり得る。
一方でキム・ヨナ選手は練習妨害発言に見られるように、デリケートで繊細な感性の持ち主である。ビジネス交渉として当然な心理的揺さぶりも、信頼への裏切りと受け止めた可能性もある。この辺りが騒動の深層ではないか。
(『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』著者 林田力)