本作は三代将軍・徳川家光の後継者争いを描いた作品だ。とはいっても、史実では後継者争いを経験した家光が、早々に家綱を跡継ぎに指名していたため平穏に終わっている。というより、この家綱へのスムーズな将軍継承により、徳川家の将軍世襲制が磐石なことを世に示したとも言える。という訳で本作は、そんな安定感のあった時代で、無理矢理お家騒動を創作した作品となっている。
脚本スタッフがヤクザ映画を多く手がけてる影響か、時代劇とは思えない、非常にアクの強い作品となっている。なお、本作では湯治中だった後の家綱である竹千代(茂山逸平)を亡き者にしようと襲撃するシーンから始まる。冒頭から忍ばない忍者が温泉にカチコミに来るなど、かなり飛ばしており、意図的にストーリーを追わせないようにしているのかと思うほどである。序盤に語られた重次と刑部の因縁も、その後の展開では殆ど意味ないし。
大筋の流れとしては、刑部とその仲間である浪人たちが、堀田正盛(丹波哲郎)の依頼を受けて刺客を撃退しながら、江戸まで竹千代を送り届けるというものだ。なぜ、竹千代が暗殺されそうになっているかというと、重次が家光(京本政樹)の命令を受けて、刺客を送るというオチだ。この殺す理由がまたすごい、家光が乱心し、竹千代が自分と顔が似ていないから徳松(後の綱吉)に後を継がせたいという、耳を疑うような理由だ。いや、老中なんだから重次がそこは止めろよ。今で言う家庭内暴力みたいな理由で起きた、悪ふざけみたいなお家騒動に、大勢巻き込まれるあたりがかなり突き抜けている。
正直、開始数分で意味のわからない展開に圧倒されることになる。それを補って余りある、凄まじいアクション方面での勢いが本作の魅力だ。
本作は千葉真一がアクション監督として作品を監修している。当時は千葉率いるJAC(ジャパンアクションクラブ)全盛期ということで、とにかくアクションシーンが派手だ。大人数でのスピーディーな殺陣などもはや当たり前。ド派手な爆発や、ターザンロープ、ワイヤーアクション、 酔拳のようなカンフーアクションなどなど、胸焼けするほどスタイリッシュなシーンの連続で、ストーリーの粗など、どうでもよくなるほどだ。
展開的には逃避行の間に、「俺にかまわず先にいけ!」状態で仲間が次々と倒れるため、角川映画の『里見八犬伝』に近い雰囲気はする。だが、エキストラの人数の多さや、アクションの手数の多さでは同作と比較にならないだろう。特に乗馬してでのアクションが多いのが特徴で、落馬のシーンでのスタントなどは注目。今では考えられないような危険なシーンもある。騎馬状態で火達磨はさすがに思いついてもなかなかやらないだろう。時代劇にも関わらず、とにかく爆発が目立つのもかなり奇抜な点だ。橋や家屋まで吹き飛ばす。もう特撮作品のような火薬量だ。
ちなみに、千葉は役者としても出演しており、伊庭庄左衛門役で、刑部らに立ちはだかるが、全編に渡り、スタントを使わず自身でアクションしていたようだ。終盤の刑部と庄左衛門の一騎打ちの殺陣は、太刀筋が早すぎて見えないレベルでチャンバラをしている。最近の殺陣に慣れているとたぶん驚くこと間違いない。しかも、足場の悪い屋根などを走り回りながらやっているというオマケつきだ。
他に特に印象に残るのが、敵の忍者集団が持っている、一時期流行ったダイエット器具の、ボディブレードみたいな形状の投槍だ。これがもう投擲前に、頭おかしいくらい無駄に振り回しており、どうしても笑い所となってしまう。あの振り回す予備動作いらないだろ。劇中で唐突に入るTHE ALFEEの挿入歌『YOU GET TO RUN』かなりの破壊力だ。一応時代劇なのに、このセンスはなかなかない。
とにかくアクションばかり、「JACのPVかよ!」とツッコミを入れたくなるほどのアクション最優先のおバカ映画だが、これをストーリー展開が安っぽい、人物描写が浅いなど文句を言うのは野暮というものだ。とにかく視覚的な勢いだけで、観ていて心地が良いレベルになっている。緩みもなくひたすらアクションを詰め込んでいるという部分では、アーノルド・シュワルツェネッガー主演で、現在もネットなどでカルト的人気を博している『コマンドー』のようなノリに近いものがある。あとは劇中の名言・珍言があれば完璧だったが、残念ながらその部分だけはこの作品は弱い。アクションに振り切ったおかげで、会話が全く印象に残らない。刑部役の緒方はともかく、仲間の浪人役として出演していた、長門裕之や織田裕二などは、まともに会話しているシーンも殆どないという状態だ。
そんななかで、比較的会話が多いのが、クライマックスとなる竹千代と家光が江戸城で対面する場面だ。しかし、ある意味アクションより強引な勢いで決着がつく、コントのようなノリになっている。まずタイトルに偽りありだ。家光以外も乱心状態で、京本と松方の「今更それ言うの!?」感満載のセリフの応酬は、本来笑うところではないが、シリアスな分、余計滑稽さを感じてしまう。指導者として色々ダメな部分ばかりで、おそらくこの世界の江戸幕府は早々と倒幕されたのではないだろうか? 老中の重次は、家光が死去すると殉死したと言われており、その辺りに注目してかなり力技で締めたような感じだ。どう企画段階で話してこういうオチになったのか理解不能だが、まあ、その訳わからない展開も含めてこの作品、ある意味では最高だ。
(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)