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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第41回 FITの闇

 本連載で何度か取り上げた再生可能エネルギー特別措置法に基づくFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)が、予想通り奇妙な事態に陥っている。
 経済産業省が8月20日に'12年度の再生可能エネルギー導入状況を発表したのだが、稼働しているのは何と認定事業者の1割に満たないという。これは一体、どういうことなのか。

 改めて説明すると、FITとは太陽光や風力などの再生可能エネルギーで発電した電気について、最大20年間、電力会社が固定価格かつ無制限に買い取る制度である。
 とはいえ、電力会社は再エネ買取代金を負担しない。実際に、FITで発電された電気の買取代金を支払うのは、家計や企業などの消費者である。読者に送付される電気料金の領収書や請求書を見ると、しっかりと「再エネ賦課金」が加算されているはずである。

 さて、たとえばFITを利用し、太陽光発電のビジネスを始めようとする投資家がいたとする。投資家は経済産業省と電力会社に事業開始を申請し、認定を受けた上で太陽光パネルを設置し、発電事業を開始することになる。
 先にも書いた通り、現在のFITの太陽光発電のビジネスでは、すでに稼働、発電を開始している事業者は「認定事業者」の1割に満たない。

 理由は次の通りだ。
 FITの買取価格は、なぜか「認定時点」のものが適用される。すなわち「稼働時点」「発電開始時点」ではないのだ。投資家が経産省や電力会社に申し込みを行い、認定を受けた「時点」の買取価格が「稼働時点から(最大)20年」適用されることになる。
 というわけで、投資家が利益を最大化するためには、取りあえず経産省と電力会社に申し込みを行い、認定を受け、じっくりと太陽光パネルが値下がりするのを待つのが最も「賢い手法」になるのだ。

 その太陽光パネルは世界的に供給過剰であるため、時間が経てば経つほどパネル価格は安くなる。パネル価格が十分に下がったと判断した時点で、パネル設置の工事を開始し、太陽光発電事業を開始すると、「認定を受けた時点」の価格で最大20年間買い取ってもらえる。
 もちろん、市場の電力需要とは無関係に「とにかく、発電しさえすれば、固定価格で買い取ってもらえる」わけで、これほど美味しいビジネスはない。
 太陽光発電の買取価格は、当初は1キロワット時当たり42円で、現在は38円だ。たとえば今後、買取価格が10円に下落したとしても、発電事業を開始した企業は「認定を受けた時点」の価格で買い取ってもらえる。

 どう考えても、経産省やエネ庁は、FITを導入する際に、
 「申し込みから最大1年以内に発電を開始すること。さもなければペナルティー」
 あるいは、
 「買取価格は認定を受けた時点ではなく、発電を開始した時点のものを適用する」
 といったルール、縛りを設けるべきだった。
 ところが、現実には「認定されたにもかかわらず、発電事業をなかなか開始しない」アンフェアな「賢い手法」を防ぐ術はない。経産省は今頃になって慌てふためき、発電計画の実態調査に乗り出す始末だ。

 恐らく、FITに投資している事業家、投資家たちは、将来的に太陽光発電の買取価格が下がっていくことは覚悟しているだろう。
 とはいえ、経産省やエネ庁は、FITの買取価格決定時期について、発電事業開始時点ではなく「認定時点」という奇妙な法律を作ってしまった。
 本稿執筆時点では、いまだに2013年3月末までの設備認定量が公開されていないが、業界紙によると、年度末に経産省への設備認定と電力会社への駆け込み申請が殺到したとのことである。買取価格の適用時期が書類申請時点で決まることが、いわゆる「駆け込み申請」を生んでいるのだ。

 もうひとつ。日本の当初の太陽光の買取価格は42円であり、FITで先行するドイツの2倍以上だった。なぜ、FIT導入時、42円という他国に比して高い買取価格が適用されたのか。
 FITの固定買取価格を決めているのは、経済産業省の「調達価格等算定委員会」である。FIT導入時、調達価格等算定委員会は「なぜか」民間の太陽光発電協会やソフトバンクの孫正義社長の「要望」をそのまま受け入れた。

 FITの買取価格決定時、太陽光発電協会は調達価格等算定委員会の意見聴衆に対し、「1キロワット時当たり税抜きで42円」と要望を述べた。
 また、当初からFIT事業参入を表明していたソフトバンクの孫正義社長も「最低でも税抜き40円」と主張していたのである。

 安価な中国製の太陽光パネル普及により、太陽光発電の買取価格はもっと安くても構わないという声があったが、調達価格等算定委員会は太陽光発電協会や孫氏の意見をそのまま受け入れた。結果的に、我々一般の日本国民は、ドイツの2倍以上の買取価格を太陽光発電事業者に対して支払わされている。
 要するに、42円というドイツの2倍以上の買取価格を決定したのは、経産省でもなければ、調達価格等算定委員会でもないのだ。民間の太陽光発電協会や孫正義氏なのである。電気を「買い取ってもらう側」が、価格を決定したという俄かには信じがたい話だ。

 信じがたい話は、もうひとつある。FIT導入時、買取価格を決定する調達価格等算定委員会の委員長は、京大教授の植田和弘氏だった。その植田氏が今、何をやっているかと言えば…。
 2013年8月1日、植田氏は孫正義氏が設立者、会長を務める『公益財団法人 自然エネルギー財団(JREF)』の理事に、めでたく就任された。これほど露骨な「癒着」「既得権益」であるにもかかわらず、なぜか国内の論者たちは誰も批判しようとしない。

 構造改革主義者たちは、結局はビジネスになれば何でもいいのだろうし、左翼は「反原発主義」であるため、再生可能エネルギー関連に批判の声を上げることはない。というわけで、構造改革主義者でも左翼でもない筆者が先陣に立ち、FIT批判の声を上げさせてもらったわけだ。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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