ネット選挙運動とは18歳以上の有権者が、これまで選挙違反とされていた《ブログやSNS(フェイスブックやライン、ツイッターなどの[個別]メッセージ)、動画で候補者を応援することができる》ようになったこと。加えて、候補者については《メール、携帯電話のSMS(ショートメッセージサービス)を使って選挙運動ができる》ようになったという点だ。紛らわしいが、メールと携帯SMSが許されるのは候補者のみで、有権者はNG。つまり「携帯ショートメッセージ」と「SNSの個別メッセージ機能」が別扱いされていることだ。
メールや携帯ショートメッセージで選挙運動をしていいのは候補者だけだが、SNSのダイレクトメッセージはメールとはみなされない。だから「候補者」が送ったメールを「有権者」が転送するのはアウトとなる。ところが、そのメールをコピーしてSNSのダイレクトメッセージ機能で転送するのはOK…。混乱はさらに続く。その応援メッセージを印刷して配るのはダメとしつつ、ブログに添付するのはOK。これは「いつまで生きるつもりだよ」と麻生太郎副総理から名指しされた90歳のご老人も、18歳、19歳の新参有権者も知っていなければならない“知識”だ。
「昨年、公職選挙法が改正され、選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられました。いわゆる『18歳選挙権』ですが、18歳といえば高校なら3年生です。当然のことですが、同じ高3の教室には18歳と17歳が混在しており、17歳の高校生は選挙権がないので選挙運動をやってはいけません。やれば選挙違反です。これまでの選挙運動といえばポスター張りや投票のお願いなど、仮に選挙権があっても高校生には現実的に無理なものばかりでした。ところが、法改正でネットへの投稿も選挙運動となり、ブログやSNS、動画投稿など高校生が得意分野とする選挙活動ができるようになったのです」(選挙関係の法律に詳しい専門家)
ここで現実的に問題になるのが、同級生である“有権者”とほぼ毎日のようにスマホでやり取りしているであろう17歳の高校3年生だ。例えば、17歳の“舛添くん”がリツイートすると『選挙違反』になる。これが18歳同士ならOKなのだが…。“舛添くん”と仲よしの18歳の“猪瀬くん”の書き込みに、17歳の“舛添くん”は自然とリツイートしたり転送したり、動画アップするのがいつもの日常。そこで安易に“猪瀬くん”が投票当日に『“ゲス候補”に投票なう、みんなもヨロシク!』という投稿をすると選挙違反になる。それを“舛添くん”がリツイートするのは前述した通りアウト。さらに政治に関心のある“舛添くん”が『オレの好きな政党は“新党三日月”』と友人に話しただけで、支持を求める発言とみなされかねない。もちろん、“舛添くん”が冗談で“猪瀬くん”に「ラーメンおごるから“ミスター領収書”に投票しろよ」と言うのは買収になる。
警察庁によれば、過去に「未成年者の選挙運動」を理由に送致された例はある。2009年衆院選で7人、'10年参院選で1人、'12年衆院選で3人だ。違反した場合は「1年以下の禁錮または30万円以下の罰金」や「5年間の選挙権停止」に問われる。前出の専門家はこうも指摘する。
「ネット分野でのやり取りなど現場の教師も把握しきれません。しかし、選挙違反を意識し過ぎると、せっかくネット選挙運動が解禁されたのに一番ネットを使う若者が参加しづらくなります。学校が監視を強めるようなことがあれば、若者の政治参加を促すという改正法の趣旨を損なう可能性があります」
文部科学省は教員向け指導用資料の中で、生徒の発言にも政治的中立を強く求める厳しい指導を徹底するよう求めており、一方、総務省は18歳の選挙投稿に17歳の同級生が『いいね!』と同意することが選挙違反かどうかは「ケースバイケース」と曖昧な回答をしている。実際に事例を見ないと判断できないということだ。
さらに文科省は昨年、高校生が放課後や休日、校外で行う選挙運動を容認することを都道府県教育委員会などに通知し、『生徒が公職選挙法違反に問われないように』と指導の徹底も促した。全国の高校には『18歳選挙権』のポスターを配布している。ある地方の教育関係者はこう言う。
「18歳選挙権は腫れ物であり、地雷みたいなものです。学校が過度に介入すれば、リベラル的な考えを持つ生徒に大騒ぎされかねない。特に参院選よりも、18歳、19歳に直接関係する地元住民の票が割れるような地方選挙を考えると今から憂鬱です」
原発など高校生にも関心が高い政治課題を抱える地域では、学校側が常識的な周知、啓蒙を伝えただけで「ファシズム!」言われそうだ。とはいえ声を上げられるだけ、かの国より幸せであることは間違いない。