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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第31回 グローバリズムの“呪縛”

 本連載で何度か解説した通り、グローバリズムとは政府の規制を最小限にし、最終的には「国境という規制」すら取り払い、国境を超えてモノ、サービス、カネ、ヒトが行き交う統一ルールの下で、企業が「自由に」ビジネスを展開できるようにしようという考え方である。

 グローバリズムを推進する人々の動機はさまざまだ。経済学者は「グローバリズムで国民経済の供給能力が高まり、インフレ率が下がる」と主張し、投資家は「自分の所得(配当金)を最大化できる」と考える。企業の場合は「自社の売上や利益を増やせる」だろうか。いずれにせよ、グローバリズムは「統一ルール」の下で世界中の企業、人間が競争を繰り広げ、所得を稼ぐべき、という発想になっている。
 結果的に、世界の企業や人間は生産性の違い、あるいは「能力」の違いから勝ち組と負け組に分かれていく。同じルールで戦っている以上、勝ち組は負け組に対し、
 「君が負けたのは、自己責任。努力が足りないからだ」
 と、切り捨てておしまいだ。

 とはいえ、各国の経済規模(GDP)が拡大している時期は、グローバリズムの弊害は表面化しない。何しろ、生産性の違いゆえにドイツから一方的に輸出攻勢を受けていたギリシャですら、'08年のバブル崩壊までは「国内の住宅投資」を柱に、きちんと経済を成長させていたわけだ。「負け組」にも別の雇用、需要が残されているのが「供給能力<需要」となっている経済成長期、もしくはバブル期なのだ。
 経済成長期とは、国民が国内で職を得て、所得を稼ぐことができる環境である。確かに、最終的にバブルは崩壊したが、少なくとも経済成長を続けている期間、ギリシャの経常収支赤字や財政赤字はそれほど問題視されていなかった(欧州委員会側が目を瞑っていた、という事情もあるが)。

 ところが、ひとたびバブルが崩壊し、需要が急収縮を始めると、グローバリズムの問題は「破滅的に炸裂」することになる。
 グローバルにルールが統一されている以上、各国家、各企業、各人間は「限られたグローバルな需要」を奪い合うことになる。すると、例によって生産性の違いから「勝ち組」「負け組」に国家、企業、人間が分かれていくわけだが、今度は「負け組」側に救いはないのだ。

 バブル期もしくは経済成長期は、「負け組」であっても他の需要で食っていくことができる。自動車生産でドイツに勝てないギリシャ国民が、国内の住宅市場で雇用を得る、などが典型例だ。
 それに対し、バブル崩壊後には負け組のための「代わりの需要」「代わりの雇用」が存在しない。結果、「負け組」の国の雇用環境は悲惨な状況に陥る。

 バブル崩壊後、グローバリズムは「限界」に突き当たるのである。すなわち「失業率の異常なまでの高騰」という限界だ。
 2013年5月31日、欧州連合統計局(ユーロスタット)はユーロ圏の失業率が過去最悪の水準に上昇したと発表した。4月のユーロ圏の失業率は12.2%と、前月より0.1ポイント上昇した。
 無論、ユーロの雇用環境は全体でも悲惨な状況なのだが、国別に見るとギリシャ、スペインの失業率が25%を超えている。さらに、両国ともに若年層失業率は50%以上なのだ。これは「国が亡ぶ」と表現しても構わないほどに酷い雇用環境だ。

 さらに問題なのは、ギリシャ、スペインなどの破綻国に加え、ドイツを除くユーロ中堅国(フランス、イタリア、オランダ、ベルギー)の失業率もジリジリと上昇を続けている点だ。
 失業率が上昇すると、所得を得られない国民が増える。彼らは最終的には(あるいは論理的には)「飢える」ことになるため、少なくとも民主主義国では政権維持が困難になる。

 失業率が急騰した結果、グローバリズムは民主主義により「是正」される。
 グローバル化した民主主義国がバブル崩壊に直面すると、グローバリズムは「政治的」に維持できなくなってしまうのだ。とはいえ、ユーロの高失業率の国々が民主主義により現状を是正できるかといえば、必ずしもそうとはいえない。

 失業率が極端に高まった状況でも、政治的にグローバリズムを維持する手段は複数あるのだ。
 一つ目は、民主主義を認めないことである。すなわち、中華人民共和国の搾取的なグローバリズムは、人民が民主的に是正することができない。太子党などの特権階級に支配された中国人民の苦難は、論理的には「永遠に」続くことになる。
 そして、二つ目は、構造的にグローバリズムから抜けられない仕組みを作ってしまうことだ。まさに、この仕組みこそがユーロなのである。

 ユーロ加盟国が失業率を引き下げるためには、積極財政、通貨発行、雇用対策や公共事業の拡大、そして「バイ・ナショナル(国産品を買え)」や「資本移動の規制」など、反グローバリズム的な政策を打つしかない。
 だが、ユーロ加盟国は「ユーロに加盟している」が故に、構造的にグローバリズムを否定する政策を打てないのである。
 すなわち、現在のユーロ加盟国が抱えている問題こそが、まさしく「構造問題」なのだ。構造問題は、小手先のソリューションではどうにも解決できない。

 日本の場合、政策的なミスを続けてデフレが長期化していただけで、現実には構造問題など存在しない。日本で「構造改革」などと叫んでいる連中は、真の意味で「構造問題」を抱えているユーロ諸国を見て、少しは勉強するといい。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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