ある日の深夜午前4時ごろ、30代のAさんがTwitter(ミニブログサービス)でつぶやきました。たまたま起きていた私が、そのつぶやきに反応しました。
「行ってみれば? 無理かどうかはやってみないと」
私は、まず行ってみて、それから考えたらどうかと素直に思ったのです。ただ、
「そのうち機会があればいってみますね」
というレスポンスだったために、このままだときっと行かないだろうと思った私は、
「一緒に行きますか?」
とふってみたのです。ということで、2人でキャバクラに行くことになりました。場所は悩みましたが、オーソドックスに歌舞伎町がよいだろうと判断しました。
また、二人のやりとりを見ていた20代のBさんも、「一緒に行きたい!」ということになり、結局、3人でキャバクラに行くことになったのです。
この30代の男性にとって、もし、この日、twitterでつぶやかなかったら、もしかすると一生キャバクラに行かなかったかもしれないと思うと、私は、一人の男性の人生を変えてしまったかもしれないという『重責』を任されることになったのです。
まず、最初に行ったのは、馴染みの客引きがいる「E」という店でした。新しい店なので、私が行くのも2回目という新鮮さがあります。
金曜日だったために、女の子がたくさんいました。「話せるだろうか」と心配していたのですが、自然に話している姿が見て取れました。しかも、女の子にドリンクを頼んであげています。ケータイの連絡先交換もスムーズにしているように見えました(後で聞いた話ですが、赤外線での送信はできたのですが、受信方法がわからなかったということでした)。
そんな独自に楽しめるのなら、私は私で勝手に楽しもうと、ほとんど2人を無視して、嬢たちの会話を楽しんでいました。そして、あっという間に1セットが終了の時間です。この日のプランは、1セットを2軒はしごする、というもの。時間通りに店を出ました。
すると、店の外では、馴染みの客引きが立っていました。その客引きに連れられて、別の店「R」に行くことになったのです。この店も私は何度か行ったことがありますが、数カ月も経てば、働いている嬢たちの多くは入れ替わっていました。
この店でも、私自身は嬢と2人で会話をする、というトークスタイルを変えなかったのですが、Bさんが作戦を変えて、Aさんと組み、嬢2人を交えて、グループでのトークをしてきたのです。それはそれでAさんは楽しんでいました。チームでのプレイを楽しんだあと、店を去ってから反省会です。
反省会は、私が店長をしている歌舞伎町のバーで行われました。Aさんは、
「(キャバクラについて)確固としたイメージがあったわけではないけど、楽しかったのです。女の子たちとも話せたし」
と話していました。何をテーマに話をしたのかを聞くと、「仕事」と返ってきました。たしかに、私も初めてキャバクラに行った時には仕事の話だったかもしれません。ただ、今は仕事の話をしないようにしていますが。
「またキャバクラに行こうと思いますか?」
と聞いてみました。楽しかったかもしれないが、お金をかけて行くほどでもないのか、お金を払う価値があると判断したのでしょうか?
「それほどお金があるわけではないので、2〜3か月したら、行きたい」
Aさんはまた行きたいと思ったようです。しかし、実は、私は悩んでいたのです。「また行きたいと思わせる店に行くのか? もう懲り懲りだと思わせる店に行くのか?」と。結局、また行きたいと思うかどうかは別として、イメージを悪くしない店を選択したのです。
数か月後、Aさんは再びキャバクラに行くのでしょうか。そしていつか指名嬢をつくり、通い続ける日々となるのでしょうか。いろんな変化が楽しみです。
<プロフィール>
渋井哲也(しぶい てつや)フリーライター。ノンフィクション作家。栃木県生まれ。若者の生きづらさ(自殺、自傷、依存など)をテーマに取材するほか、ケータイ・ネット利用、教育、サブカルチャー、性、風俗、キャバクラなどに関心を持つ。近刊に「実録・闇サイト事件簿」(幻冬舎新書)や「解決!学校クレーム “理不尽”保護者の実態と対応実践」(河出書房新社)。他に、「明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中」(幻冬舎文庫)、「ウェブ恋愛」(ちくま新書)、「学校裏サイト」(晋遊舎新書)など。
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