8150分の18。05年に産声を上げたサラブレッドが今年のダービーに出走できる確率である。厩舎を開業して12年目の小桧山師は、この一生に一度の晴れ舞台に2頭の管理馬を出走させる。
02年ダービー馬タニノギムレットを父に持つスマイルジャックと、未出走のエイシンサンディが父のベンチャーナインだ。とりわけ、ベンチャーナインはエリートが集うダービーの舞台にあって、雑草のたくましさを持つ。
当馬は06年のサマーセール取引馬で、購買価格は420万円。出走登録馬26頭中14頭を占めるサンデーサイレンス系産駒の1頭だが、ほかの高額馬と比較すると何ともリーズナブルだ。
そんなベンチャーナインを「1頭(個人)馬主の“希望の星”と言ってるんです」と笑う小桧山師。自分自身を「へそ曲がり」というだけに、その発想もユニークそのものだ。
「高い馬が手に入らないというか、高い馬を買える馬主さんとは付き合っていない。だから発想も自然と逆になってね。手に入る馬でそういった馬(血統馬)を負かす方向でいくしかないと。イジケ根性ですね」
それが“小桧山流”のポリシーであり、開業以来、そのスタンスは一貫して変わることがない。トレーナーは限られた予算の中での牧場視察やセリへの参加を感慨深げに、こう例える。
「ボクはある意味で、宝物のない場所で宝探しをしているのかもしれない。でも、幸運にもベンチャー(ナイン)という宝物に出合えた」
宝探しの話になると子どものように目が輝いた。
「ダービーに出られる馬も宝物だけど、自分の中では40回、50回と、5歳、6歳まで厩舎にいて競馬をしてくれる馬を見つけるのも宝探しと思ってる。3戦3勝で引退する馬と、50回、60回走って2つ、3つしか勝ってない馬とどっちが面白いか、甲乙付けがたい」
決して背伸びをせず、身の丈にあった、分相応の厩舎経営にこだわる小桧山師の姿勢に、共感を覚えるファンも少なくないだろう。
「見るだけのレースと思っていたダービーに、2頭も参加させられるのは調教師冥利に尽きる。ボクらは結果を受け止める仕事なので、他馬のジャマをせず、人様に迷惑をかけないで走ってきて、それで結果が良ければ最高」
荒れ模様のダービーだけにベンチャーナイン、スマイルジャックの伏兵2頭が、人気の高額馬にひと泡ふかせるシーンも十分。小桧山師は気負うことなく、静かにその時を待っている。
〈プロフィール〉
◆小桧山悟(こびやま・さとる) 1954年1月20日兵庫県生まれ。81年4月より畠山重厩舎で調教助手を務め、95年に調教師免許を取得。同年、美浦で厩舎を開業した。主な活躍馬にイルバチオ(03年アイビスサマーダッシュ)、スマイルジャック(08年スプリングS)がいる。また、大相撲小結の稀勢の里の私設応援団長の顔も持つ。