「2軍へ行け」。中田翔に対する梨田監督の言葉は冷たかった。キャンプ、オープン戦では“王子さま扱い”だったのが、手のひらを返したような通告だった。
「大きなショックを受けていましたよ」と担当記者。続けて「中田は真っ青になっていましたからね。高校まで彼はいつもナンバーワンとしてチヤホヤされてきた。突き放されたのは初めてのことでしょう。どうしていいのか分からないのではないか」
先輩選手も「プロは力の世界ということを実感したと思うが、泣きべそ状態だったな。怪物と持ち上げられただけに、自分が相手にされない打者ということを知って胸のうちは半狂乱状態だろう」
2軍のイースタンリーグ開幕戦では3三振と無様なデビューだった。相手のロッテから「ボールがキャッチャーミットに入ってから振っているぞ」と冷やかされるほどひどかった。その後の若手育成試合のフューチャーズ戦にも出場、5打数2安打したものの、首脳陣の評価は辛い。
打てない、守れない、走れない、と今では酷評の的。だから「5年間は鍛えないとダメかな」とフロントも覚悟を決めている。その一方で中田指名を強硬に訴えたスカウトたちに「どこを見ているんだ」と恨み節も出るほど。「とにかく金(1億円の契約金)をドブに捨てたと言われないようにしたい」と球団関係者はため息をつく。
どうしたら中田翔はモノになるのか。専門家の声は厳しい。名球会のメンバーの一人は「まず守ることからだな。守れなくては試合に出られないからね」と、イロハのイからとの御託宣。別の大物評論家は「一塁を守らせて野手の動きを学んだ方がいい」と小学生並みのアドバイスを送る。
試合での中田翔はというと三塁を守っている。「それじゃ野球を覚えられないね」と評論家たちは口を揃える。
中田翔は打撃だけで注目され、プロ入りした。今の高校野球は練習時間の多くを打撃に費やしているのが実情で、ホームラン数さえ稼げばプロから誘いの声がかかることを指導者は承知しているという。つまり野球の基礎がおろそかになっている。中田翔はその典型といっていい。
プロ入り後、チヤホヤしたのはマスコミだけではない。テレビ専属の評論家もヨイショのオンパレードだった。なかでも北京五輪の日本チーム星野監督の「天才的打撃。五輪候補」とブチ上げたのは“究極のヨイショ”だった。
「あれで中田はすっかりその気になり、新人王を取れるかも、と口走るほど。五輪選手に選んで鍛え一人前にするのが星野監督の責任、と多くの専門家は言っていますけどね。今では星野から中田のナの字も出ません」(ベテラン記者)
背番号6をもらって「月30万円の小遣いじゃ、何も買えへん」と大口をたたいた中田が懐かしい。5年後にどう上達しているか、見ものである。