その間に登場したソフトの本数は実に1000本以上(ゲームボーイカラー専用含む)。後世まで語り継がれるであろう名作から、コツコツ貯めた小遣いをドブに捨てたに等しい子供泣かせの迷作まで。玉石混交、さまざまなジャンルのゲームが登場した。今回紹介する『カエルの為に鐘は鳴る』は前者に類する作品であり、いまだにリメイク希望の声が後を絶たない名作である。
絶世の美女と噂に高いティラミス姫の治めるミルフィーユ王国が、悪の大魔王・デラーリン率いるゲロニアン軍団に占領されてしまったところから、本作の物語は始まる。姫と王国を救うべく立ち上がった二人の王子は幼なじみ。お人好しで情にもろいサブレ王国の王子(=主人公)と、キザでクールなカスタード王国の王子・リチャード。二人は競うようにミルフィーユ王国へ乗り込むのであった。
一見するとオーソドックスなファンタジー系のゲームに思えるが、それもほんの一瞬のこと。「ゲロベップ温泉郷」(下呂別府)、「フーリン火山」(風林火山)といった地名をはじめ、埋蔵金発掘に勤しむ「こぴーらいたー」(糸井重里)、「カザンオールスターズ」(サザンオールスターズ)とそのリーダー「ヘースケ」(桑田佳祐)など、本作は種々のパロディやギャグで満ちあふれているのだ。
また、熱血漢タイプの雰囲気が漂う王道系主人公も、おだてられればすぐに調子に乗るわ、何でも金で解決しようとするわで、一筋縄ではいかない。ちなみに初期の所持金は999万9999クリ(金の単位)と、最初からチート状態である。ただし、街で回復アイテムをくれた子供にいたく感動し、その母親にお礼と称して100万クリをポンと渡すなど、金銭感覚はとち狂っており、焦る母親に対しては「そんなの私にとってははした金だ」と言い放つ始末。木の盾が100クリの世界なのでやはりどう見ても大金だが、一国の王子だけあって金の使い方も破天荒なのである。
肝心のゲーム内容については、ゆるいながらも骨太な作りになっており、独特の戦闘システムはシンプルながらもよく考えられている。道中に点在している敵に触れると戦闘開始、以降は主人公と敵が自動でターンを繰り返し、最終的にどちらかの体力が全て無くなった段階で、戦闘終了という流れ。なお、戦闘には運の要素は一切なく、勝敗は主人公のパラメーターと武器および防具、敵の強さに依存する。また、パラメーターはアイテムで強化する方式を採用しており、レベルの概念は存在しない。
ちなみに大幅に格下となる敵に触れた場合は戦闘シーンには入らず、その場で画面の外へ敵を吹き飛ばせる便利なシステムを搭載。ゲームボーイのRPGで戦闘中に電池切れを起こし、セーブが間に合わないという悲しきシーンに何度も遭遇した身からすれば、当時この簡略化された戦闘シーンがどれだけありがたかったことか。
なお、ある時点からは特殊な能力を有したカエルやヘビに変身できるようになり、元々の人間を加えた3種族をうまくスイッチしながら、ストーリーを進めていくことになる。加えてダンジョン内にはアクションパズル的な仕掛けも。もっとも、難易度自体はかなり控えめなので、よほどのことがない限りは誰でもエンディングに到達できるはず。ちょっとだけネタバレになってしまうが、ラスボスもびっくりするほど弱い。
もちろんストーリーそのものも魅力的であり、さらにゲームボーイとしては珍しい漢字かな混じりのテキストも、場面に応じてフォントサイズが最大4倍程度まで拡大するなど、色んな意味で読み応えがある。
そんな名作が、今では税込僅か411円(バーチャルコンソール)で楽しめるのだから、いい時代になったものだ。バーチャルコンソールなら、初期ゲームボーイ特有の“ドットをじわじわ侵食する謎の線”や“ゴミが入り込んで見づらい画面”等の諸症状に悩まされる心配も当然ない。
本作をはじめ、いつまでも心に残る作品を数多く輩出したゲームボーイ。今後も、たくさんの名作・迷作たちがバーチャルコンソール化されることを期待したい。
(内田@ゲイム脳=隔週月曜に掲載)
DATA
発売日…1992年
メーカー…任天堂
ハード…ゲームボーイ
ジャンル…アクションRPG
(C)1992 Nintendo