「最後の記者会見はあきれたね。『偽装と受け取られても仕方がない』って言い方は、『そういう見方もある』と消費者をバカにしているようなモノだ」
食材偽装で袋叩きに遭っている阪急阪神ホテルズ(出崎弘社長=11月1日付で辞任)の親会社、阪急阪神ホールディングス(HD)の掲示板には、いまだこの手の厳しい書き込みが溢れている。直営の8ホテルにある少なくとも23軒のレストランで、2006年3月から今年の9月まで、実に7年にわたって“メニュー違反”が堂々とまかり通っていたのだから無理もない。
HD傘下の阪神電鉄の子会社が運営する『ザ・リッツ・カールトン大阪』でも'06年4月から偽装をはじめ、これを今年の7月に把握しながら公表しなかったことも明るみに出た。この“連鎖”に堪りかねた阪急阪神ホテルズは、系列の全国33ホテルについても実態調査に着手。まさに、どこまでも飛び火する気配を見せている。何せ問題発覚後、直系や系列ホテルでは宴会などのキャンセルが相次いでいるのだ。
グループ企業も例外ではなく、阪急阪神百貨店の荒木直也社長は、10月29日の決算会見で「おせち料理のキャンセルが十数件出ている」と悲鳴を上げる始末。既にHDの株価は急落し、お騒がせ企業としては“東の東電”と肩を並べている。
なぜ、食材偽装が7年間も続いたのか。加えて、なぜ最近になって表面化したのか−−。当の阪急阪神ホテルズは、その理由を明らかにしていない。
注目すべきことがある。ホテル側が偽装に着手した'06年3月といえば、村上ファンドによる阪神電鉄の株買い占めが発覚('05年9月)、乗っ取り騒動に発展した揚げ句、阪急電鉄が阪神にTOBを実施('06年5月)し、'06年10月1日付で両社が経営統合した渦中に当たる。関係者があきれて表現するその「ドサクサに紛れた強い意志」は、'07年10月に発覚した“難波の囁き女将”こと船場吉兆事件にも全く動じず、連綿と続けてきた事実からもうかがえる。
言い換えれば、株買い占め騒動に端を発した親会社の綱引きに乗じてリッツ大阪を含むホテル群が暴走し、気が付けば、誰も止められなくなっていたのだ。
もうひとつの疑問には、統合(合併)会社にありがちな権力抗争の匂いがプンプンする。阪急阪神ホテルズが事実関係を把握したのは9月、リッツ大阪は7月末だったとされる。いわゆる内部告発が発端だ。ただし、メディアへのタレ込みではなく、あくまでも“上層部への告発”だった。
それを踏まえて社内調査が始まり、おぞましい実態が次々と明らかになっていく。市場関係者は冷ややかだ。
「HDでは統合の経緯からいって、阪神出身者は肩身が狭い。ホテルズも同様で、詰め腹を切るハメになった出崎前社長は阪急の出世コースを歩み、去年の4月にはHDの役員兼務でホテルズ社長に出向した。HDの社長候補に挙げられたほどですが、そうであれば逆に足を引っ張られやすい。今回の内部告発にしても『阪神サイドがリークした』『いや、彼の出世を快く思わない阪急サイドじゃないか』と実に騒々しい限りです」
出崎社長は宝塚歌劇団の総支配人を務めた経歴を持つ。その宝塚大劇場にあるレストラン『フェリエ』が食材偽装に名を連ねていることも憶測を呼んでいる。折しも10月28日の記者会見で、出崎社長は辞任の理由をこう述べた。
「ホテルズだけで収まることがなく、阪急阪神の信用問題にまで発展した。その責任は辞任をもって償うしかない」
社長が自ら首を差し出すことで、早期の幕引きを図ろうとの思惑に他ならない。しかも本人はHDの役員も辞任した。心構えは会社に忠誠を誓うサラリーマンのそれだが、前述のように系列ホテルの調査は継続中だ。従って新たな問題が浮上した場合、新社長が「これは前社長時代の案件だから関知しない」の一点張りで逃げ通せるわけがない。
それを織り込んだのか、親会社である阪急阪神HDの株価は大幅下落が止まらない。前出の市場関係者が不吉な感想を漏らす。
「村上ファンドによる阪神株買い占め騒動の生々しい記憶からか、時にはまとまった買い注文が入って一時的に株価が上がる。これだけ世間を騒がせ、ブランド価値が大きく毀損している今、よほどのモノ好きでなければ株を買いません。誰が何のために買っているのか。HD首脳は内心、ビクビクしているはずです」
前門の偽装ショック、後門の株価下落。果たして、阪急阪神HD関係者が枕を高くして寝られる日は来るのだろうか。