原作は、脚本家・岡田惠和と峯田による同名小説。二人の出会いは、峯田のドラマ初主演作品となった2016年放送の『奇跡の人』(NHK総合)。その後、峯田が俳優として広くお茶の間にも知られるきっかけとなった連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK総合)の撮影中に、同じく脚本を担当していた岡田に“峯田の所属するバンド・銀杏BOYSの楽曲をモチーフにした小説、映画化”の計画を持ち掛けられたという。
これについて峯田は、「自分の曲の何曲かをもとにお話を作りたいと言ってくださって、びっくりした」と率直に語り、「曲を作ってた身分からすると、『あの曲はどういうときに作られたんですか』と質問を受けますけど、たいてい僕落ち込んだときに曲って作れるんです。だから落ち込んでた時に作った曲がまさかこういう形で…誰かが見てくれるんだな、と思いました」と、予想もしていなかった旨を明かした。
小説、本作共に、銀杏BOYSの楽曲をイメージソースにしたラブ・ストーリー。すぐ隣にいるようなどこか不器用で心にいろいろな思いを抱えている男女が“年に一度、七夕の日にだけ会う”というロマンチックな設定で、銀杏BOYSの楽曲にも通ずるリアルとファンタジーが共存する物語だ。銀杏BOYS・峯田の世界観を大切にしながらも、岡田のドラマ性が加わった化学反応を感じられる。
本作の主演を務める古舘も、無期限休止中の「The SLOVERS」と、現在は「2」というロックバンドのメンバーとしても活躍している。峯田と同じく、少年期から青年にかけての幼さと危うさ、複雑な感情が表現された楽曲で人気だ。古舘は撮影後の感想を聞かれると、「銀杏BOYSの楽曲ありきのストーリーだったので、詩に合わせて世界観を表現するのに苦労したけど、峯田さんに『そんなん気にするな』と言われて、ふっきれて撮影を乗り切れました」と演じる上での苦労を語った。
共通点の多い峯田と古舘。ミュージシャンから俳優業を始めた二人らしい会話も飛び出した。本作ヒロインの石橋静河について「本当に実在する女神だと思った」と語る古舘に峯田が、「好きだってこと?」と聞くと、初めははぐらかしていた古舘も最終的に「好きでした。目が美しくて見つめられるとドキドキしました。」と照れながら認めていた。反面峯田は、共演の女優さんを好きになることはないと明かし、自分だけ告白させられた古舘は腑に落ちない様子ではあった。
カメオ出演の豪華さも本作の特徴。特に峯田の俳優デビュー作『アイデン&ティティ』からは、ヒロインの麻生久美子、原作のみうらじゅん、監督の田口トモロヲ、脚本の宮藤官九郎が総出演しており、感慨深いファンも多いだろう。同作はみうらじゅんの自伝小説の映画化、今作『いちごの唄』は峯田の楽曲モチーフの映画化とあり、次のバトンが古舘へと渡されたようにも見える。銀杏BOYSの楽曲が好きな人も、そうでない人も、まだ未熟だった頃の初期衝動、引きずっていた青春を思い出し胸がキュッとなる作品だ。
原作の峯田は最後に「まさか自分が映画祭に参加できて、何年もかけて作った『いちごの唄』がみなさんに見ていただけて、感無量です」と力強く作品への想いの深さを語った。『いちごの唄』は、7月5日より全国ロードショー開始となる。