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2010年 夏の甲子園特集(2)〜越境入学に勝る『郷土愛』〜

 今春のセンバツ大会中、プロ注目の大型投手と話をすることができた。「夏の大会が終わるまではボクが言ったって言わないで…」とお願いされているので、その大型投手の名前は明かせないが、筆者は高校卒業後の進路について質問したときだった。彼は「野球は高校で終わり」と言った。もったいない、彼ほどの実力があれば、大学、社会人はもちろん、プロ野球でも通用すると思うのだが…。
 彼がこの夏の大会を「野球人生の集大成にしたい」と言う理由にも驚かされた。「生まれ育った町を出たくないんです」−−。

 地元意識。「他県からの越境入学生ばかりだから、応援できない」といった高校野球ファンの嘆きは、今に始まったものではない。筆者も北海道や東北圏の高校で『関西弁』を聞いても驚かなくなった。野球留学に批判的な高校野球ファンが多くても、「甲子園出場の夢を叶えるため」「将来は野球でメシを食いたい。そのためにあの学校へ行って…」と考える球児は、年を追うごとに増え続けて行った。
 しかし近年、地元・郷土意識を強く持った球児も目立ち始めた。
たとえば、プロ注目の好投手、風張蓮投手率いる伊保内高校(岩手県)がそうである。プロ7球団スカウトが地方予選に駆けつけたように、その才能は中学時代から知られており、強豪私立を薦める声もあったが、「地元から全国制覇を目指したい」とし、同校に進んだ。こうした考えは風張だけではない。選手全員が地元・九戸中学の出身だという。また、風張の言動を総合すると、菊池雄星と花巻東高の旋風にも影響を受けたようだ。「地方の小さな町からでも、日本一を目指せる」という菊池たちの昨夏の活躍が励みになった。
 こうした地元意識を強く持った学校は、ほかにもある。2006年に旋風を巻き起こした沖縄県石垣島の八重山商工が思い出される。
 08年、千葉ロッテマリーンズは春季キャンプ地を同地に移しており、筆者は同観光課に招致活動について取材をした。その際、対応してくださった職員は、若者の郷土離れを防ぐ一貫として「全国に誇れるものを作りたい」とし、その成功例として『石垣島トライアスロン』と八重山商工の甲子園での活躍も挙げていた。野球に限らず、スポーツで素質を持った学生は沖縄本島や九州圏へと離れて行ったという。「全国大会で対等以上に戦える学校があり、実績もできれば、若者の島離れに歯止めかかかる」とし、石垣島全体で応援できる環境を整えることにした。有能な指導者を見つけ、島をあげて応援する…。大嶺祐太・翔太兄弟の出現も大きいが、彼らに地元の学校から日本一を目指したいと思わせた環境作りが功を奏したわけである。

 球児たちに郷土愛が育まれるのは歓迎すべきことだが、越境入学を認めている学校も『地元』を意識させている。たとえば、知識清掃活動に野球部員を参加させている学校も少なくない。地域の大人たちは他県から来た球児であっても、その名前と顔を覚え、やがて親近感も芽生えていく。球児たちも進学のためにやって来たこの町に愛着を持つようになる。
 また、他県越境入学ではないが、北海道・鵡川高校では積雪の冬場、近隣住民の雪かきを自主的に手伝っていた。「応援してくださる地域の皆様への感謝」と語っていたように記憶する。地元出身者だけでメンバー構成されるに越したことはないが、地元市民による応援の有無は『大人たちの環境作り』と、球児たちに「感謝の気持ち」を教えるかどうかで変わってくるのではないだろうか。
 「郷土を出たくないから、高校で野球を辞める」というのは極端だとしても、甲子園大会は観る者にも生まれ故郷を思い出させるものである。

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