落合博満中日GM(60)はそう主張し、全国行脚しているという。目的はスカウティングだ。スカウトの報告を疑っているのではない。「自身の眼で直接確かめる」とし、隠密行動を続けているのだ。
「セ5球団は『谷繁政権は落合GMのカラーが采配にも色濃く反映される』と読んでいました。しかし、大方の予想を裏切り、落合GMは球場には全く顔を出していません」(ベテラン記者)
阪神の中村勝広、DeNAの高田繁、北海道日本ハムの山田正雄など、他球団のゼネラルマネージャーが存在感を示すのは外国人選手の獲得やトレードをまとめたときだ。しかし、落合GMは違う。ドラフト候補の視察を続けているものの、そのスケジュールは中日関係者も把握していない。
「昨季、日本一になった楽天でさえ、スカウトの人数を減らそうとしています。情報化の進む昨今、『隠し球』と称される無名の逸材はいないし、ドラフト会議の一位指名以外はウエーバー制なので、指名してしまえば交渉の仕様はいくらでもある」(球界関係者)
逆指名制ではないので、スカウトが特定選手に密着する必要性もなくなった。しかし、落合GMの全国行脚には、昨年の“沖縄事件”の教訓も影響しているのかもしれない。
「アレは、2、3年のうちに絶対にローテーション投手になるね」
イースタンリーグ首脳陣が地団駄を踏みながら、その将来性を認めている新人投手が巨人の二軍にいる。ドラフト5位指名の平良拳太郎(19)だ。平良は人口約900人の沖縄県今帰仁村の出身。「好投手がいる」という情報は12球団がキャッチしていたが、巨人以外のスカウトは昨夏の沖縄県大会での平良を視察していない。
「スカウトは地区別の担当制になっており、トーナメント表を見て勝敗を予想し、視察スケジュールを組みます。平良君のいた北山高校は、当然勝ち上がる予想していたんですが」(在京球団スカウト)
そんな予想を裏切り、平良の北山高校は延長戦の末に初戦で敗れてしまった。当時の平良に対する評価は「育成枠で指名」というのが大半で、直接視察した巨人だけが支配下枠に繰り上げたというわけだ。
「オリックスが1位指名した吉田一将は名門・青森山田の出身ですが、高校時代は補欠でした。進学先の日本大学は当時、二部に低迷しており、社会人のJR東日本で才能が開花しました」(前出関係者)
吉田の例だけではなく、大学、社会人で鍛えられたからこそ、プロ野球選手に成長できたケースもある。
一般論として、夏の甲子園大会が始まるころには、全球団ともお目当ての選手に対する調査は終えている。この時期の視察は“確認”にすぎないが、指名するか否かのボーダーライン上にいる選手に関しては、正しく評価されていないのが現実だ。落合GMの隠密視察が、プロ野球界のスカウティングを変えるかもしれない。